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◆闇神の檻(13)


十日後、スティールは直属の上司であるコーザから報告を受けた。

「ほぼ解決したぞ、スティール」
「早かったですね」
「まぁな。長引かせるわけにはいかない問題だし、王家と近衛が動いたからな」

問題はミスティア家のお家騒動に発端があるため、近衛軍が巻き込まれたとはいえ、王家と第五軍の間で処理が行われたという。
王家が仲介に立ったのはミスティアという大貴族の問題だったかららしい。
一つは大貴族のプライドだろう。ミスティアは南東の大貴族という誇りから、他者の介入を喜ばなかったらしい。故に王家が入り、仲介したのだ。
元凶であるアルディンの母親は謹慎処分。アルディンの父親であるミスティア公爵は妻であるアルディンの母を国内の静養地に送る決定をしたという。今後は表舞台に出ることなく、その静養地で静かに暮らすことになるという。
そしてその母親の実家のシルバ公爵家も領地の一部没収など当主以下、厳しい処分を受けた。そして当面は別の貴族により政務の監視を受けることになるらしい。その監視はミスティア家筋のアーティ伯爵家が行うという。

「そのアーティ伯爵家だがな…」
「…え…?」

アーティ伯爵家はミスティア家の親族に当たり、国内一の港町ギランガの頭領家であるという。
その次期当主は被害を受けたシードの婚約者であり、今回の件に激怒しているという。
当然ながら、シルバ公爵家への監視も厳しいものになるだろうとのことだった。

「へえ、シード様の…」
「おかげで第五軍は事件が解決したというのに喪に服しているかのような暗さらしいぞ」
「…は?…」
「第五軍の大隊長たちは全員シード副将軍のファンだったらしくてな」

今回の一件を聞いたアーティ伯爵家の次期後継者が慌てて駆けつけてきて、第五軍の人々は初めてシードに婚約者がいることを知ったという。
目の前で初々しいやりとりを見せつけられた大隊長達は、すぐには立ち直れないほど落ち込んでいるそうだ。

「……た、大変ですね」
「まぁな。当分第五軍には近づかない方がいいぞ。暗すぎて、鬱陶しくて仕方がない」
「はぁ…」
「ところで、スティール。お前は今回の件でまた第二等勲章を得ることになった。つまり二個だ。このことで大隊長への昇進資格が得られたことになる」
「は!!??」

拉致られただけで何もしていないと思うスティールだったが、話によると拉致された先の地下の建物は邪教の本拠地であったという。そこをほぼ壊滅させたのでそれが功績となったらしい。
死んだ中には邪教の宗主もいたという。スティールには心当たりがないので間違いなくシードかドゥルーガだろう。宗主の死は敵将の首と同じ意味を持って功績となったそうだ。

「あれはドゥルーガとシード様のおかげで俺は何もしてません」
「紫竜はお前の武具だからお前の功績になる。むろんシード副将軍も同じ勲章を貰われる」
「で、ですが俺には大隊長なんてそんな…」
「むろん、お前はあまりにも新米過ぎるので保留になった。お前が大隊長として相応しい経験を積んだら自動的に昇格となる。頑張って学べよ」

肩をポンと叩かれ、スティールは思わずため息を吐いた。


一方、小竜は憤慨していた。
スティールは剣を取り返す気はないらしい。自分が持っているよりシード様が持っておられた方が役に立つなどと言っている。剣を持つ気は全くないらしい。

「どうやら結婚されるらしいから、結婚祝いにちょうどいいんじゃないかな。地下脱出を助けてもらったし、そのお礼にもなるし」

結婚祝いが剣などと聞いたこともないと小竜は思った。剣は戦いのためのもの。血濡れることが前提の剣では不吉極まりないではないか。
それ以前にあの剣はスティールに作ったのだ。そのことを己の使い手は判っていないようだ。

(もうこいつに剣など打ってやるかっ!)

元より剣を持つ気がないスティールには何の効き目もないことを密かに決意するドゥルーガであった。

<END>