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◆猫とネズミとレストラン〜ある事件裏の話〜

6.猫集め(四日目)


「おい、スティール、今日はちょっと行く先を変えるぞ」

どうやら飲食店じゃないらしい。

「ネズミが大発生した原因を探っていたんだがな、すみか、天敵、餌などの条件によって、際限なく発生するようだ。今回はどうもゴミの管理が原因の一つのようだ。南東にあるウェバラ地区から問題のネズミが流れ込んできている。あの地区には複数の大きな飲食街がある。以前から悪臭で近隣住民ともめ事が絶えない地区だ。衛生管理に関しちゃ最悪に近い。側溝の管理もほとんどされてねえという調査結果がきた」

なるほど。
さすがニルオス様だな。猫調べ以外にも調査をされていたのか。

「当たり前だろうが。起きる問題には必ず原因がある。原因を解決しないと同じ事の繰り返しだ」

ニルオス様が行かれる方角はどんどん治安が悪くなっていく。整然と整った石畳が荒れたものに変わっていき、ぱらぱらと歩く人影も柄の悪い酔っぱらいや浮浪者が多くなった。
何だか物騒になってきたなと思っていると、ピリッと右手がしびれるような感覚が走った。ドゥルーガだ。
そして視界の端にキラリと光るものが見えた。
刃物だ。
気づいた瞬間、右腕が動いていた。


一番、得意なのは緑の印。
けれど炎と土も得意だ。さんざん戦場で使い込んだ。
今回はそれが幸いした。小型の守護術ならば大して難しくもないし、力も使わない。
小型のナイフを隠し持ち、ニルオス様の腹部目掛けて襲ってきた男は、ギリギリで土の防御壁に阻まれ、地面に転がった。

「なっ…」

驚くニルオス様の前に走り込み、地面に転がった男の手を蹴って、ナイフを遠くへ弾き飛ばす。
何とかなったと安堵したのもつかの間、周囲に十人近い男たちが現れた。
全員が剣を持っている上、傭兵のような姿をしている。ようするに純粋な戦闘員だ。そこら辺のちんぴらではなさそうだ。
一体何でこんな事になるんだろう。ただの猫集めに来たから、猫を入れる檻以外、持ってきてないというのに。何か悪いことでもしたのかな。今まで捕まえた猫の中に貴族の飼い猫が入っていたとか。ありそうだ。

「いや、ありえねえだろ。それ以外の心当たりなら山ほどあるが」

俺の予測はあっさりと一刀両断された。
ええ!?心当たりがあるんですか!?
…ところでニルオス様、武器は?

「持ってるわけねえだろ」

堂々と言われる。貴方、軍人でしょうが…!
手ぶらの俺も人のこと言えませんけど。

「ただでさえ猫を入れる檻を持たなきゃいけねえのに、剣なんか持ち歩くわけねえだろ。重いだろうが」

そもそも俺は頭脳派だ、とニルオス様。
いや確かにそうかもしれませんけど、剣が重いってそんな。
頭脳派なのは、誰もがそう思ってそうですけど、一応騎士なのに。
それになにより、ヤバイですって。この状況は!!囲まれてるんですよ!!

「俺の印は緑だ。戦えねえからな」

守れと言わんばかりに言われる。
ええ、マジですか、ニルオス様っ!?