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◆青竜の使い手(7)


「大手柄だったね」
戦闘終了後、フェルナンはそうスティールへ告げるとしかめ面になった。

「一人で青と赤の将軍を捕らえたというのは大手柄だ。けれどこちらも捕らえられた者達がいる。取引を申し込まれたとなると応じないわけにはいかないだろう。大隊長で捕らえられた者がいるからね……捕虜を見捨てたとなると国の醜聞だ」
「…はい」
「さすが七竜の使い手というべきかな。攻撃力ではガルバドス随一だとは聞いていたが、レンディにはやられたよ。もっとも、うちじゃなく第三軍の被害が大きい。第三軍は攻撃に長けた軍だというのに競り負けてしまった」
「第三軍がですか!?」
「あぁ。レンディと対峙したのが第一軍じゃなかったのがまだ救いだ。うちだったらもっと被害は拡大していただろう。うちはバランス型だ。状況に応じて臨機応変に対峙出来はするが、レンディのような圧倒的な攻撃力に対峙するには少々弱いからね」
「はい…」
「しかもレンディは今回、片腕とも言うべき双神のシグルドと円神のアグレスを連れていなかった。それでぎりぎり互角とは情けないものがある。残された課題は大きいね」

小さくため息を吐き、フェルナンは踵を返した。

「リーガへ捕虜交換の話をしてこよう。大隊長が何人か捕らえられたと落ち込んでいたから喜ぶだろう。貸しを作れたな」

(貸しって…フェルナンはニルオス様に影響受けてるよなぁ…)

一軍の将ともなるとそれぐらい世渡り上手じゃないとやっていけないのかもしれないが、毒舌家で性格の悪い第二軍将軍を思い出すとどうしても邪推したくなるスティールである。

「次は是非、最前線に出て、剣を振るいたいものだ」

軍団長になったことで全体指揮を執る立場となったフェルナンは今回の戦いで最後方に布陣していた。故に実際に剣を振るう機会に恵まれなかった。それが少々物足りないらしい。

「レンディ以外を相手にしてくださいね」
「ほぉ、私が彼に劣るとでも?」

怒るより興味の方が勝ったらしい。フェルナンは目を輝かせている。強い相手は嬉しいらしい。なるほど、軍団長に就くだけあるなとスティールは妙に感心した。戦いを好まなければ敵将に好奇心を抱くなどあり得ないだろう。

「彼はよほどのことがない限り、一対一で争いを挑んではいけないと思います」

スティールはレンディを思い出しながら答えた。
最初に捕らえた二人の将よりずっと気味が悪かった。
二人の将はいかにも戦場の猛者という雰囲気だった。堂々とした態度といい、圧倒的な殺気といい、すべてが段違いでそれだけに判りやすいぐらい『敵』だった。
しかしレンディは何もかもが違った。
殺気は全く感じられず、好奇心たっぷりの眼差しは殺気や敵意ではなく、好意のようなものが感じられた。飄々とした雰囲気が戦場では場違いでひどく浮いていた。
黒こげて焦土と化した地に笑顔で立つレンディは状況が全く判っていないんじゃないかと疑いたくなるほどだった。
その底知れなさがスティールを警戒させた。
何より小竜の態度がスティールのおそれを確信に至らせた。ドゥルーガはレンディの姿が見えなくなるまでずっと警戒を露わにしていたのだ。

フェルナンはスティールの返答に軽く瞬きし、思案顔で腕を組んだ。

「ふむ…それは君の意見かい?紫竜の意見かい?」
「俺です。ですがドゥルーガがずっと警戒を解きませんでした」
「なるほど。考慮すべき意見のようだね。覚えておこう」

納得してくれたフェルナンにスティールは安堵した。