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◆青竜の使い手(6)


(スティール……すげえ……)

青と赤の敵将を見事に倒し、スティールはゆっくりと倒した敵へ歩いていこうとした。
しかし唐突に足を止める。更に前方を見ている。

(何だ?)

ただ一騎で悠然と歩いて近づいてきたのは黒いロングコートを羽織った青年だった。
異様なのはその身に絡みつくような大蛇だ。黒に近い青色の鱗を輝かせ、頭部を肩の上に乗せた蛇は目を爛々と輝かせてスティールを見ている。
年齢はまだ二十代半ばだろう。馬に乗ったその姿は全く強そうに見えない。コートを羽織っていなければ将軍位に立つ者にさえ見えないだろう。
しかしコートの左半身に大きく縫い取られた紋章は大国ガルバドスにおいて最高位を意味する八将軍のものだ。

(青竜の使い手レンディか!!)

名だたる将軍が揃う軍事大国において、最大かつ最多の武勲を誇る将。
幼き頃から戦場で生き、気に食わぬ相手は味方さえも殺してしまうという逸話を持つ彼は大国ガルバドスにおいて、国王の次に大きな権力を持つと言われている人物だ。

ラーディンは息を飲んで七竜の使い手同士の対峙を見守った。


++++++


時は少し遡る。
紫竜ドゥルーガのおかげで敵の術から身を守ることができたスティールは、ドゥルーガのおかげで大技を奮うことに成功していた。
スティール自身は自分だけで印を奮うことができなかったことを内心悔やんでいたが、ドゥルーガの方は冷静だった。

「気を抜くな。来るぞ」
「え!!??」

ドゥルーガの忠告に驚いて顔を上げる。
ゆっくりと近づいてきたのはガルバドスの将軍だった。しかし倒した二人よりラフな姿をしている。一応将軍位を現す制服は着ているが、コートの前は大きく開いたままであり、下に着ているシャツは平民の普段着のようだ。
一種異様だったのはその青年に絡みついた大蛇だ。腕の太さぐらいの青い大蛇は青年の胴体に絡みつき、肩の上からこちらを見ている。

「あの趣味の悪いヤツがディンガだ」
「え?」
「青のディンガ。お前らが青竜と呼んでいるヤツだ」

スティールは大蛇が七竜の一人と知り、驚いた。

青竜の使い手らしい青年は、明るそうな雰囲気で、好奇心たっぷりに紫竜を見て笑んだ。

「初めまして。君が紫竜の使い手か。俺はディンガの相棒でレンディって言うんだ」

(これがレンディ……ガルバドス国軍の最高位に立つ8将軍の一人…!)

風に靡く黒い髪はごく普通のショート、やや細い垂れ目は青。
あまり肉付きはいいように見えない。背も中背だ。しかし羽織っている黒いコートには八将軍の証である紋章が左半分に大きく縫い取られている。その紋章が所属の軍を表す紋章となる。一万兵の頂点に立つ証なのだ。

「………」

小手状態のドゥルーガは答えない。沈黙を保っている。
これが戦場でさえなければ穏やかな出会いになれたかもしれない。しかし同じ七竜の使い手とはいえ、敵国に所属する身。しかも場所は戦場だ。どう考えても穏やかな出会いにはなれないだろう。
レンディと名乗った男はスティールの側に倒れている二人の将へ視線を向けた。

「さて取引と行こうか。私はそこの二人を帰してほしい。条件としてそっちの隊長を四人ほど返す」

返すと言い切っているということは既に捕らえているのだろう。
ドゥルーガは無言だ。同じくディンガも無言のままだ。
静かな緊張が伝わってくる。

「…将軍に相談してから返答する」

スティールが答えるとレンディは頷いた。

「いいだろう。明日の正午、ここで会おう」

笑顔を浮かべ、レンディは去っていった。