文字サイズ

◆青竜の使い手(5)


ラーディンは問うことも自分で決着を付けることもできず、ダラダラと関係を続けていた。

ガルバドスが侵攻してきたのはフェルナンが正式に第一軍将軍についてしばらく経ってからのことだった。
近衛軍から出陣するのは1、3軍と決定し、当然ながらラーディンとスティールも出陣することになった。
スティールたちはコーザ大隊に所属している。
コーザの隊は最前線に配置され、スティールたち新人は大隊の中でもなるべく後方に配置された。
戦場の緊張感にラーディンら新人は全員が体を硬くしていた。
新人は敵を倒そうと思うな、身を守ることだけを考えろと先輩や上官にはしつこいほど言われていた。
ともかく防御に専念し、時間を稼いでくれればいい。そうすればその間に敵を俺たちが倒してやるからと。
幸い、前線が奮戦してくれているのか、ラーディンらがいる場所までは敵兵はやってこなかった。この調子ならば刃を交えずに帰れるかもしれないと思ったとき、強力な気が前方で巻き上がった。

(何だ!?)

「来るぞ!!」

誰かの叫び声が聞こえた、と思った瞬間、圧倒的な衝撃がラーディンたちを襲った。


++++++


バチバチと雷の音がする。
ラーディンは吹き飛ばされた衝撃でくらくらする頭を押さえながら起き上がった。

「痛〜っ…」
「ラーディン、障壁を張って防御して!」
「スティール!?」

スティールは数メートル先に立っていた。あの衝撃の中、ただ一人吹き飛ばされずに耐えたのだ。ぼんやりと目が輝いている。何らかの術を使用しているのは明らかだった。
その前方に二人の騎士が立っていた。
一人はまだ若い女性。幼くすら見えるが、術を振るったのはその女性の方であるらしい。大技を奮った余韻のような気がうっすらと見える。
その隣には2m近い背がありそうな長身の男。手には大剣を握っている。
女性は赤、男は青のロングコートを羽織っている。ガルバドスの青将軍と赤将軍だ。

「スティール!!」

二人の将を相手に新人であるスティール一人で対応しきれるはずがない。ラーディンは焦ったが、痛みで体がうまく動かなかった。スティールを失ってしまう恐怖に焦る。しかし何の打つ手もなく、ラーディンは狼狽した。
そのとき、じんわりと腕の印が熱を持っていくのが判った。

(…!?土の印が……!?)

スティールの印と呼応しているのだ。どうやらスティールが印を発動させかけているらしい。
一方、敵の方は騎士一人と侮っているのだろう。余裕たっぷりで隙が伺える。
スティールの腕がぼんやりと輝き、印の力が大きく解放される。
大地がひび割れて炎が走る。上級印による炎と大地の合成技『炎蜘蛛陣(リ・ジンガ)』だ。
驚愕したのは二人の敵将だ。
下手したら士官学校生のような頼りない風貌の新米騎士がまさか一人で上級印の合成技を放つとは予想もしていなかったらしい。

「な!!??」
「馬鹿な!?これは『炎蜘蛛陣(リ・ジンガ)』か!?」

蜘蛛の巣のように放射状に走った炎が大地を砕くように地面から吹き上がる。
上級印による合成技の射程範囲は広い。数メートル先なら容易に直撃だ。
新人のような騎士一人ということで全く警戒していなかった二人の将は逃れる間もなく巻き込まれた。