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◆聖ガルヴァナの声(2)


カイザードは少し驚いていた。
弟がいるとは聞いていた。しかしここまでそっくりとは思わなかった。鏡のようにそっくりだ。遠く離れて暮らしているというのに髪の長さや浮かべる表情まで非常によく似ている。聞けば双子だという。納得だ。

スティールが多忙なために面会室ではなく執務室に通されたサフィールは最初からしかめ面であった。
対するスティールもしかめ面。
そんな双子を興味深そうに見るのはカイザードだけではない。少し離れた場所で執務机に向かうフェルナンも手を休めて見ている。
双子は机を挟んで向き合っていた。

「ハッキリ言って地元に帰る暇はないんだけど」
「そう言ってチルルおばさんの葬式も帰ってこなかっただろうが」
「それは悪かったと思うけど、何で今帰らないといけないのさ。帰省したときにちゃんと墓参りに行くから」

とにかく今は無理なんだと面倒くさそうに告げる兄へサフィールは更に渋面となった。

「それじゃ間に合わない可能性がある。いいか?ラジクじゃ手に負えないことになってるんだ。お前は帰らずともお前の相手は借りるぞ?闇の手がいるんだろうが」

興味なさ気だったスティールの表情が一変した。目を見開く。

「ラジクじゃ手に負えない?」
「そうだ。このままじゃクルルおばさんが連れて行かれかねない」
「それでウィダーを?あの子は確かに闇の手だけれど、使ったことがない闇の手だよ?ラジクの手伝いが出来るとは思えないけれど」
「だからお前も帰ってこいと言ってるんだろうが。最悪、サポートぐらいはできるだろ?」

うー、と唸ったスティールは諦めたようにため息を吐いた。

「判った。とりあえずウィダーが役に立つかどうかはお前が見てくれよ。とりあえずここへ連れてくるから」

サフィールは納得したのか頷いた。



「どういうことだい?」
フェルナンの問いはカイザードの疑問でもあった。
スティールはしかめ面で首をかしげる。サフィールは食事を取ってくると言って出ていき、今はこの部屋にはいない。

「ご近所のおばさんが亡くなられたんです」
「それで?…亡くなられたのは一ヶ月前なんだろう?」

直後に駆けつけるならともかく時間が経ちすぎている。慌てて行く必要があるとも思えない。

「おばさんは闇の手の家系でした」
「闇の手?さきほどもそんなことを言っていたな。その闇の手とは?ウィダーの名が出ていたということは闇の印と関係するようだが」

さすがにフェルナンは聡い。そうですとスティールは頷いた。

「王都では死者の埋葬を神官が行うようですが、俺の地元は違います。闇の印の持ち主が行う。おばさんの家は過去、その闇の手を出したことがある家系なんです」
「それでウィダーを?埋葬の手順など全く知らぬだろうに」
そうですとスティールは頷く。

「ウィダーは知識がない。だから無茶なんです」

俺は反対です、とスティールはしかめ面で答えた。



近衛軍からの使いで呼ばれたウィダーは慣れぬ近衛軍本舎に表情を強張らせていた。
サフィールは部屋に入ってきたウィダーを見て目を見開いた。

「……サフィール?この子がウィダーだ」

サフィールはマジマジとウィダーを見つめ、双子の兄を振り返った。

「このバカが!なんでこんなに似てて気づかないんだ、お前は」
「ええ?酷いなぁ。何だよ」
「17歳、だったか。年齢も合う。スティール、この子はチルルおばさんの息子のキルルだろーが!髪も目も同色で年齢も同じなんだぞ、何故気づかないんだ」
「ええ?キルル坊やって、おばさんの嫁ぎ先で死んだんじゃなかったの?」
「違う。勝手に殺してるんじゃない。人さらいにあったんだよ。この子は孤児だと言ってたな。攫ったヤツは闇の手を欲しがったあげく、育てきれなかったんだろう」
「………あ、確かに言われてみればおばさんと同じ色か…」
「そもそも自分の相手ってところで気付け。運命の相手は近くに生まれることが多い。お前は複数印だが本来は緑なんだから緑の相手が本来の相手だろうが」

いや、本来の相手って、とスティールは口の中でもごもごと呟いた。

「けど、ウィダーがキルルなら、ますます、まずくない?クルルおばさんもろとも連れて行かれたらどうするのさ?ラジクの補佐どころじゃないよ」
「そこは俺たちじゃなくラジクが考えるところだ。ともかくキルルを連れていくぞ、スティール。お前もキルルを殺したくなかったら着いてこい。どちらにしろ、クルルおばさんにキルルを会わせなきゃいけないだろ」
「あー…うん。ねえ、サフィール。ホントにウィダーはキルルなのかな?」
「それもラジクが調べるだろ。あいつに視えない過去はない」

判った、とスティールはため息混じりに頷いた。