明るくさっぱりした性格のグリークは書類を片手に執務室へやってきた。
「おはよう、ニルオス。急ぎのようだと聞いたが、何か起きたのか?」
機嫌急下降のニルオスと正反対にグリークは上機嫌のようだった。
そういえば昨日から王都では収穫祭が行われている。グリークの運命の相手は芸を見せて各地を回る流れの民だ。昨夜はその相手と会ったのだろう。
(俺様があの気色悪い本を読んでいる間にこいつは楽しんでやがったのか!)
完全に八つ当たりながらも更に機嫌が悪くなったニルオスは無言で『フェルナン様ファンクラブ会報第52号』をグリークへ投げた。
「わっ!何するんだ、ニルオス」
手に書類を持っているため、受け取り損ねたグリークはぶつぶつ言いながら書類を卓上へ置き、会報を拾い上げた。
「……なんだこれは……?」
どうやらグリークも存在を知らなかったらしい。表紙を見て固まり、恐る恐る中身を読み始めた。
「…………」
どんどん青ざめていく様子を見つつ、ニルオスはざぁまみろと思った。
気色悪い思いを自分ばかりがするというのは不公平ではないか。不幸は分けまくって薄くすべきなのだ。そうして周囲を踏み台にし、自分だけが逃れられたらいうまでもない。
そこへノックの音が響いた。
「ニルオス、俺を呼んでいると聞いたんだが…」
フェルナンの友であり、大隊長のサフィンである。
青ざめたグリークと顔を見合わせたニルオスは当然のごとくそのサフィンにも本を投げつけたのであった。
サフィンの反応は早かった。
最初の数ページをぱらぱらと見ただけで卓上へ荒っぽく放り出した。
フェルナンの親友だけに耐え難かったのだろう。
「なんだこの『フェルナン様ファンクラブ会報第52号 黄薔薇会』というのは!!」
律儀に会報の正式名称を告げるサフィンに生真面目なヤツだと思いつつ、ニルオスは見ての通りのものだと苦々しく告げた。
「ありゃ一種のストーカー記録だな。風呂に入る時間帯、使ってる香水の銘柄や飲んでるコーヒーの種類、砂糖の数やミルクを入れるか入れないかまで書いてあったぞ」
会報を隅から隅まで読んでしまったニルオスが告げるとグリークとサフィンは顔を引きつらせた。
「そこまで書かれてるのか」
「そこまで読んだのか…」
二人の感想は微妙に異なっていた。
ニルオスはダンと拳を卓上にたたきつけた。
「いいか?このままじゃ次号で俺様がフェルナンの相手にされちまうんだよ。冗談じゃねえ!!俺様が登場するってことはお前らも必然的に登場人物になる可能性が高い。判るか?この気色悪さがっ!!俺様の相手はアルディンだけで十分だ。判ったらとっとと叩きつぶすぞ。本は一冊残らず焼き尽くせ。間違いなく根絶やしにしろ!!!」
グリークとサフィンは頷いた。自分にまで被害が及ぶとなると嫌でもやる気が出る。
「じゃあ作戦を告げるぞ」
指先でトントンと卓上を叩くニルオスにグリークとサフィンは同音で答えた。
「「御意」」