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◆嵐の扉(2)


「フェルナン様、フェルナン様」
「あー、いいから背負って連れて帰れ」
「すみません」

思いがけぬ相手に起こされた。何故ここが判った?

「いや判ったというか…」

スティールはちらりと背後に視線を向ける。サフィンか。
少し気落ちする。

「さぁ、帰りましょう、フェルナン」

もう遅いから泊まっていくつもりだ。

「……それは嫌です」

どういう意味だい?

「ご友人といえど、他の男のベッドに貴方を寝せておきたくありません。帰りますよ、フェルナン」

……驚いたな。それは君なりの独占欲かい?

「そうです。貴方は俺を嫌いでしょうけど、貴方は俺のです。貴方が認めたくなくても貴方の運命の相手は俺ですから、俺のです」

意外な台詞にまた驚く。

気が弱くて、何にでも流されて生きる子だと思っていた。
流されて生きているのも彼の意志だと最近知った。
そしてその流れの中に引っ張り込むような強引さも持っているというのか。
全く人は見た目に寄らないというけれど、意外性の固まりだな。こんな強引な面を持っているなんて思わなかった。

けれど悪くはない。
私を手玉に取ろうというのならそれなりの手腕を見せてもらわないと割に合わない。
そう思っていた矢先、店を出てすぐにスティールは立ち止まった。

「確かに帰るのは面倒ですね、宿を取りましょう、文句は言わないでくださいね」

どういう意味だ?

「遊びたいと言って出ていったのは貴方ですよ、フェルナン。まさか俺が見つけるまでの間、誰かと遊んでいたわけじゃないですよね?まぁそんな風には見えませんが。俺が相手してあげます」

ずいぶんな言いぐさじゃないか。誰が君の相手をすると言ったんだい?応じると答えた覚えはないが?

「そういえばちゃんとやったことはありませんでしたね。自信ありませんか?俺、ちゃんと貴方とヤってみたいんですが」
「私が何度も大人しく抱かれると思っているのかい?」

フェルナンが吐き捨てるように答えるとスティールは笑った。

「大人しく抱かれなくても構いませんよ。貴方の腕を見せてください」

そこまで言われて退けるわけがない。ただでさえ年下の相手なのだ。
挑発に乗るのは癪ではあったが、いいだろう、と頷いた。