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◆風の刃(5)


ラーディンは自分の武具である盾の力を発動させた。重力を操る彼の盾の力は範囲内を反重力で守る。流れ矢などは完全に防ぐことができるだろう。その代わり、攻撃もしづらいという欠点がある。

敵が襲いかかってきた。

「炎を使え」

小竜の指示にスティールは頷き返し、飛びかかってきた相手へ遠慮容赦なく炎を放った。その炎に合わせるようにドゥルーガが雷を飛ばす。炎と雷の威嚇攻撃に敵が怯む。
ドゥルーガはその隙に鳥のようにハイスピードで飛ぶと雷を降らせた。武具に落ちた雷で敵の数人が武具を取り落とす。

「火だ!!」
「うん!!」

小細工は苦手だが、派手に炎を飛ばすだけならば大した術でもないので出来る。上級印の持ち主だけあり、威力だけは大きな炎を飛ばすと不意を突かれた敵が炎に巻き込まれて倒れた。
更にドゥルーガが飛ぶ。敵はドゥルーガを狙って矢を放ったが、ドゥルーガは矢を受けても平然としている。驚き動揺する敵にスティールは炎を放った。

(大丈夫だ、戦える!!)

酷く緊張して、頭の中は真っ白だったが、一人、また一人と倒れていく敵に勇気づけられる。火を放つ以外のことが殆どできないスティールだったが、ドゥルーガが飛び回って、敵を攪乱してくれたおかげで攻撃を受けることは殆どなかった。
そうして何とか敵を倒すことが出来たのであった。


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「……っ、はぁはぁ……」

極度の緊張から解放され、スティールは大きく息を吐いた。ふと気づくと小竜は見るも無惨な姿だった。

「ド、ドゥルーガ。矢が三本も刺さってるよ」

哀れな見た目にスティールは顔を引きつらせた。

「みたいだな。宝石ならともかく、矢じゃ飲み込んでおく気にもなれん」

抜け、と無造作に告げる相方に頷き、スティールは矢を引っ張った。ゼリーに飲み込まれた矢を抜くように大きな衝撃もなく矢が抜ける。皮膚は硬く感じるのに不思議だなとスティールは思う。

(さすがスライム…)

こういう時は酷く便利だ。本来なら何度も死んでいただろう。

「スティール…俺たち勝てたのか?」

強張った声のラーディンの問いにスティールはぎくしゃくと頷いた。

「う、うん。…ドゥルーガのおかげかな」

「…そっか……」

大きくため息を吐くラーディン。
生き延びた実感に体中の力が抜けて二人揃って座り込んだ。
それから数十分後、ようやく味方が駆けつけてきた。

「スティールッ!!」

真っ先に駆けつけてきたカイザードはそのままの勢いでスティールに飛びついた。

「死んだかと思ったぞ、無事でよかった!!俺の縮んだ寿命を返しやがれ!!」

んな無茶な、と思いつつもスティールもカイザードの無事を確認できて安堵した。万が一、土砂崩れに巻き込まれていたらと気が気でなかったのだ。
よくやった、大手柄だと告げる中隊長のコーザは表情が硬い。王女は救えたが、多くの部下を失ったためだろう。

「土砂崩れの直後、浮き足だったところに襲撃を受けてな。運良く土砂崩れに巻き込まれなかった方も死者を出した。ラオ中隊の方は土砂崩れと合わせてほぼ全滅に近い。……ラオも死んだ。クロー大隊長もだ」
「生存者は…」
「100名いない。援軍要請のため早馬を出したが、そっちも無事でいるかどうか……」

土砂崩れと襲撃により、約500名前後いた味方が五分の一以下だという。

「ならここに留まっていても無駄だな」

紫竜は冷静だった。

「来るかどうかも判らない援軍を待っていても状況は好転しない。移動するしかねえぞ」
「けど、どうやって?馬車はもうないよ」

スティールが問うと紫竜は鼻で笑った。

「歩け。人間には足があるだろうが」