近衛軍は上から、軍団長である将軍、副将軍二人、大隊長約10名、以下、中隊長、小隊長と続く。以下は騎士と一般兵だ。
大隊長は約千名の部下を持つ。内訳は騎士300名、歩兵700名。隊によって多少前後するがそれぐらいが平均だ。
中隊長は隊によって差があるが、100名から300名前後の部下を持つ。
小隊長は隊によってあったりなかったりだが、十名前後の部下を持つ。存在自体があまり重要視されない隊なので、哨戒など特別任務の場合に組まれる程度だ。
スティールたちが所属するコーザ中隊は約150名。小隊はなく、コーザが全体を直接指揮している。
コーザは指揮官なので先頭だ。コーザと一緒に居たがるラグディスが前方を希望してそのまま隊の先頭へ行ってしまったので、カイザードも前方護衛となった。
スティールたちは入隊したばかりの新人なので後方に配置された。更に後ろは別の中隊が守っている。
ララ姫の護衛任務はゆっくりしていた。姫の輿入れなので、王女が乗る馬車を守ることが中心となる。長旅の経験がないララ姫に負担をかけないよう進んでいくため、酷くゆっくりしたものとなった。必ず大きな町に泊まりながらなので、時間がかかる仕事となった。
おめでたいことなので、各町では歓迎を受けた。そうして少しずつ行程は進んでいき、やがて一行は国境を越え、グラスラード国に入った。それだけで一ヶ月近くが経過していた。
事態はグラスラードに入り三日目に起きた。
西の大国ガルバドスからの密偵に襲われたのである。
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「イタタタタ……何なんだ一体」
いきなりの轟音に何が起きたのか判らないまま、強烈な衝撃に流された。
訳が分からなかった。どうやら少しの間、意識を失っていたらしい。
ツンツンと額を突く感触に眼をさましたら紫竜が目の前にいた。どうやら紫竜ドゥルーガに助けられたらしい。
「呑気なことを言ってる場合じゃないぞ、スティール。山道で崖崩れを喰らったんだ。かなり死者が出たに違いないぞ。酷い死臭がする」
「えー!?」
スティールは慌てて周囲を見回した。確かに土砂に埋もれている。
上方を見ると山が綺麗にえぐれていた。スティールたちは大量の土砂に押し流されたのだ。
「お、俺、よく助かったなぁ」
「俺がいて死なせるわけがねえだろ」
えへん、と言わんばかりに胸を張る小竜。この手のひらサイズでどうやって自分を助けてくれたんだとスティールは疑問に思った。
しかし今は疑問を感じている場合ではない。スティールは我に返って青ざめた。
「…って、ラーディンとカイザード先輩は!?ラーディン!カイザードッ!」
「ラーディンはお前の後ろだ」
後方に体を半分土砂に埋もれて意識を失っているラーディンの姿があった。慌てて土の中からラーディンを引きずり出す。
「ラーディン、しっかりしろっ!あと、カイザードはっ!?」
「シッ。黙れ、スティール。あまり大きな声を出すな。それよりさっさとこの場をずらかるぞ。この土砂崩れを仕組んだ奴らが王女の死を確認しにくるはずだ」
「ええ!?姫は亡くなられたのか?」
「さあな。……馬車は完全に土砂に埋もれているが」
小竜は完全に他人事だ。スティールのことにしか興味がないらしく、助けに動く気配はない。
「どこだよ!?どの辺りだよ!?」
スティールに問われ、小竜はスティールの肩から飛び立ち、土砂の上に乗った。
「ここだ」
なるほど完全に埋もれている。
「ええ!?どうにかならないのかよ!?それにカイザードはっ!?」
必死に手で土を掻き分ける。しかしあまりに大量すぎて途方に暮れる。
「カイザードは恐らく巻き込まれていない。隊の方でもかなり前方にいたからな。助けたいなら土を動かせばいいだろ」
手伝ってやる、と小竜は雷を落とした。衝撃で周辺の大地が弾け飛ぶ。
「うわっ!?」
「ラーディンを起こせ。そいつは土の印を持ってるだろ。お前と一緒に印を使え」
「う、うん」
スティールはラーディンを起こすと必死で印を動かし、埋もれた馬車の扉部分まで掘り進めた。
そうして何とか馬車の中の王女と侍女を引きずり出した。命はあるが二人とも意識を失っている。
「に、逃げれるの?」
「逃げるしかねえだろ。とっとと行くぞ」
王女と侍女を背負いながらなので歩むスピードは遅い。足下も不安定なので覚束ない。
「逃げ切れるとは思わねえ方がいいな。援軍が来るまで持ちこたえようと思った方がいい。確かに味方もやられたが全滅したわけじゃねえ。ここはガルバドス国内じゃねえ、グラスラード国内だ。持ちこたえたら何とかなる」
「うん」
その言葉に応じるように複数の足音が追ってくるのが聞こえてきた。10名はいるようだ。
スティールとラーディンは背負った二人を地面へ下ろした。
緊張する二人にいつも冷静な紫竜が指示を出す。
「ラーディン。お前は二人を守ることだけを考え、盾を発動させろ。スティールが敵は倒す。いくぞ、スティール」
「うん」
「わかった」
今は紫竜のドゥルーガを信じるしかない。
ドゥルーガも戦うつもりか、スティールの肩の上で翼を広げた。