一方、スティールは友人ラーディンの実家へ招かれていた。
王都で商家をしているラーディンの家は大所帯でいつも賑やかだ。その中にスティール一人が混じったところで何ら違和感はなく、あっという間に馴染んでいた。
「ラーディンがいつもお世話になってます」
「よろしくねえ。何かあったら遠慮無く言っておくれ」
「ほらこっちこっち、ご飯できてるよ、たくさん食べてね、遠慮はいらないよ」
「よく冷えた果物もあるよー」
しかも全員が世話焼きで明るい性格だ。なるほどラーディンの家だとスティールは妙に納得した。ラーディン自身が世話焼きで明るい性格だからだ。
「悪ぃな、スティール。俺の家、五月蠅いだろ?」
食後、賑やかな食卓から解放されてラーディンの部屋へ入るとラーディンは申し訳なさそうにそう言った。
「ううん。気にならないよ。俺、元々寮暮らしじゃん」
大所帯での生活は慣れていると告げると、そうだったな、とラーディンは安堵したように笑った。
「今度スティールの家にも行ってみたいな。薬師の家だったな。南だったっけ?」
「うん。田舎だよ、南のルォーク地方。何もないけど穏やかないいところだよ」
「初任務も決まったし、腕を鍛えないとな」
「うん、まさか他国行きが初任務とは思わなかったけど」
幸い、同じ運命の相手ということでカイザードとも同じ隊に配属されることができた。
カイザードと同じということは必然的にラグディスとも同じだ。ラグディスは相変わらずコーザと一緒に居たがるので、連鎖的にスティールもコーザと接する機会が多くなっていた。
「なぁそっちの花、カイザード先輩の?」
「うん」
「…相変わらず不器用なのな…」
カイザードは手先が不器用だ。花束はいつも折れたり曲がったりしている。しかし手作りにこだわっているのか、毎年手作りの花束を作ってくれる。あいにく進歩は見られないが。
一方のラーディンは早々に手作りを諦め、毎年購入している。花に菓子を添えて渡すのはいつも寮へ行って渡しているため、差し入れの意味もある。スティールはというと、育ち盛りの若者らしく花より菓子を嬉しそうに受け取っている。いささか張り合いはないが、花より菓子というのはラーディンにとって気が楽なため、あまり気にしてはいない。
「…あの方からは?」
ぽつりと問われる。
「いや貰ってないよ。俺は渡したけど」
まぁ初年度だしとスティールが告げると、そうか、とラーディンは呟いた。
「そもそも俺が運命の相手ってことあまり意識されてない気がする」
スティールはぼやいた。
フェルナンはスティールなしで今の地位まで登り詰めた人物だ。剣技も印の技も長けているという彼はスティールがいなくても騎士として何の問題もない実力者だ。むしろ戦場ではスティールなど足手まといだろう。
スティールがぼやくとラーディンは苦笑した。
「まぁな。雲の上すぎるよな」
「うん…」
フェルナンにスティールは必要がない。少なくとも騎士としては、フェルナンはスティールを必要としていないのだ。
そこが問題なんだとスティールは思った。