執務室にはニルオスの他、二人の副将軍フェルナンとグリーク、そして次に副将軍となることが決まっているサフィンがいた。
「折角の引き抜き、申し訳ありませんがお断りさせて頂きたく思います」
当然ながら眉をつり上げたのはフェルナンだった。
「一般騎士の立場でありながら身をわきまえよ!」
冷静にと自分に言い聞かせつつ、スティールはフェルナンの方を見なかった。見たら決意が揺らぐことが判っていたためだ。
「私はニルオス様に申し上げています。異動命令書もニルオス様からのご命令でした」
反論しようとしたフェルナンへニルオスは片手を上げて制した。
「おもしれえ。俺はこいつと話したい。フェルナン、出ていろ」
「ニルオス!!」
「出ていろ」
フェルナンは足音荒く出ていった。
「…全く…おい、ガキ。お前、ヤツに何をした?あいつはな、殺しの命令さえ顔色一つ変えないヤツだ。そいつがこれほど感情的になるのは初めてだ」
「……申し上げることはできません」
説明しようとしたらあの夜のことを言わねばならない。フェルナンのためにも口外することはできなかった。
「フン。まぁ大体予想は付くがな。ガキ、お前は判らないかもしれないが、体に気が残るんだよ。異種印同士は混ざり合わねえからな。俺のように長時間ヤツと接しているとさすがに気づく。俺も一応緑の印保持者だからな」
「…申し上げられません」
「ふん、度胸だけは一人前だな。俺を相手に顔色一つ変えない一般騎士は初めてだ。まぁいい。異動命令は一時保留にしてやろう。後は自分でヤツを説得するんだな」
あいつは手強いぞと告げるニルオスにスティールは少し安堵した。どうやら第一軍に残ることは出来るらしい。
「大丈夫です。ありがとうございます」
頭を下げて出ていったスティールにニルオスは笑った。
「聞いたか?グリーク。大丈夫だとよ。自信満々じゃねえか。あのフェルナン相手に大丈夫と言い切ったヤツを俺は初めてみたぞ」
「そうだな。だが意外だ。気弱そうで大人しそうに見えたんだが、人は見た目によらぬものだな」
ニルオスはクッと笑った。
「案外バランスとれてるんじゃねえか?フェルナン相手に気弱じゃやっていけるわけがねえ。さすがは『運命』だ」