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◆風の刃(14)


第一軍は人事異動の渦中にあった。
いよいよトップが入れ替わる。それも第二軍からの異動だという。
トップが入れ替われば幹部も入れ替わる。第一軍は元々年齢層が高かったため、これを機に引退する騎士が多く出た。元々騎士は肉体労働だ。引退も他の職より早いのだ。

「お前さんの相手がいらっしゃるようだな」

そうスティールに告げた中隊長のコーザはやや困惑気味だった。
彼は今回の任務で大隊長への昇進が決まっている。隊の被害は大きかったが王女を無事守りきったことが昇進に繋がった。

「お前さんは第二軍行きのようだから入れ替わるが…」

通常、異動は人事部からの命令だ。それは軍同士の異動でも代わりがない。
しかし例外がある。上からの引き抜きの場合だ。
各軍のトップや副将軍といった幹部が動いた場合、命令が先になり、事務手続きが後回しになることがある。今回もそのパターンだった。

「お前さんは残ると思ったんだがなぁ」

コーザの困惑も当然だ。折角運命の相手同士が同じ軍になるというのに異動の理由が分からない。それも第二軍トップから直々の命令。断りようがないが、七竜の使い手という以外、取り柄のないスティールを直々に引き抜く理由が謎だ。

「しかもラーディンとカイザードに移動命令は来てねえし…」

スティールだけを引き抜いてどうするというのか。単純に騎士としての能力だけならその二人の方が遙かに上だ。直属の上官であるコーザはそのことをよく知っている。

(嫌がらせじゃないのかなぁ…)

フェルナンを疑うのは悪いが、スティールはそう思った。恐らく自分を見ていたくないのだろうと。
それならばスティールに抗う理由はない。このことを知った後のラーディンとカイザードの反応が気になるが、軍トップからの命令ではラーディンとカイザードにもどうしようもないだろう。立場が違いすぎる。

(第二軍か…)

近衛軍屈指の知将ニルオスの軍。
現在の近衛将軍の中では、最古参。しかし実年齢はまだ二十代。最年少で近衛将軍に立った実力者だ。彼の元へ行けば恐らく学べることも多いだろう。

『望まぬ運命を受け入れ続け、ただ流れ流されて生きていくのかい?』

そう問うたフェルナンを思い出す。

(フェルナンやラーディンと共にいたい…)

そういう意味ではこれもまた望まぬ運命だ。
けれどフェルナンがそう望むというのなら。

(いいわけだろうか…)

第二軍へ行ってしまえばフェルナンと共にいれない。
共にいたいと願ってくれるラーディンとも離れて戦場へ向かわねばならない。
カイザード、ラーディン、フェルナンと同じ道を歩めなくなる。
スティールは手を握りしめて立ち上がった。




「あん?紫竜のガキが来てるだと?」
ニルオスはニヤリと笑った。
「面白れえ……通せ。軍トップ相手に直談判とはなかなか根性の座ったガキじゃねえか」