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◆夢見る雨(8)

約半月後、凄腕医師のロディールがミスティア騎士たちとともにやってきた。ミスティア家の都ミーディアから、医療用品などの支援物資を持ってきてくれたという。

「コウから伝言だ。『サヴァが礼に来い』」
「あぁ!?普通はこういうときって院長が行くべきだろ!?なんで下っ端の俺が!!」
「療養所はまだまだ忙しく、テーバ殿が抜けるわけにはいかないだろう、というコウの気遣い……っていう口実らしい」

そう口を挟んだのは二十代前半に見える若い男だ。そこそこ容姿のいいその男は、身なりに気を使っているらしく、質の良い服を着ていて、艶のある綺麗な黒髪を飾り紐で首の後ろで結んでいる。その飾り紐は紫色の宝石がついている上質なものだ。

「同じ町出身だが、会うのは初めてだな。俺はウィン。アンタの話はコウからよく聞いている。あいつを渡す気はねーぞ」

いきなりの宣戦布告にサヴァは驚いた。
しかし、コウには元男娼の護衛がいる、と前回、ロディールに聞いていたので、ショックを受けることはなかった。
元々、とても身分違いだった上、銀の城にいた頃は気性の荒いお嬢様に敵意を向けられていた。男娼時代など敵だらけだったことを考えれば今更だ。

「俺なんか気にすることねえだろ、アンタ」

質の良い服も、宝石付きの飾り紐もコウからの愛情を感じさせるものだ。オマケにミスティア家の紋章入りのバングルまで見える。ミスティア家の所有物だという証だ。コウが自分自身のものだと宣言しているようなものだ。これはハッキリした寵愛がなければ贈られないだろう。
そう思いつつ言うと、ウィンは苦笑した。

「あいつは俺を身受けしようとはしなかった。アンタだけだ」
「!!」
「だから俺はアンタにかなわねえなって思うんだ。あいつが欲しがったのはアンタだけだ。けど俺はあいつが好きだ。だから諦めたくない。負けねえからな」
「俺はアンタと争う気はねえ。けど俺もコウが好きだ」
「じゃあライバルだな」

ライバルだなと言いながらもウィンの眼差しに敵意はない。
その様子を呆れ気味に見ているのはロディールだ。

「まぁ平和でいいことだ」
「え、そうか?」

ロディールにしてみれば、コウの父である現ミスティア領主アルドーを間近で見てきたので、そう思ってしまうのだ。
アルドーには三人の女性がいる。
それぞれ、アルディン、リド、コウの母親たちだが、お世辞にも仲はよくない。
コウたちは大変仲がいいのに、母親同士の仲は正反対なのだ。
特にアルディンの母親は気性が荒く、アルドーも手を焼いている。

「コウって有能なのかバカなのかわかんねーよな」

思わずサヴァがそうぼやくとウィンは吹き出した。