「ミスティア家から返答が来た。会ってくれるようだ」
封書の内容を見ながらのシェルの言葉にウィンは驚愕した。
ここで聞くことになるとは思わなかった言葉だった。
しかし理解したと同時にウィンは叫んでいた。
「ミスティア家だって?俺を連れて行ってくれ!!」
「理由は?」
当然の問いだろう。ウィンは必死に告げた。
「…っ、コウに、会いたいんだ。頼む、何でもするから連れていってくれ。大人しくしている。邪魔は絶対しない。ただ一目会いたいだけなんだ」
会えるかもしれない。その可能性があるというだけでウィンは耐えられなくなった。
もう忘れていたはずだったのに。
もう吹っ切れたと思っていたのに。
ミスティアという名を聞いただけでこれほど心揺さぶられるとは思わなかった。
会いたい、ただそれだけの思いが心を満たした。
結局全然忘れることができていなかったのだとウィンは思った。
「コウ…。確かミスティアの次期領主の名だな。知り合いなのか?」
シェルに問われ、ウィンは苦笑した。知り合いと言えるのだろうか。
「……俺は元男娼だ。コウは馴染みの客だった。コウが大金をくれたおかげで俺は店を出ることができたんだ……身請けはしてもらえなかったが…」
高望みはできないだろう。
けれどただ一目見れるだけでいいと思う。
そう思いつつ告げると、シェルは頷いた。
「いいだろう。兄の件で借りがあるからな」
会える!!
ウィンはパッと顔を輝かせた。
+++
ウィンはシェルの護衛として他の護衛と共にシェルの後方にいた。
遠目にコウの姿が見える。
シェルに応対するコウはウィンが知る頃より背が伸び、大人っぽくなっていた。
(相変わらず綺麗だな…それに…)
噂に聞くだけで結局目にすることができなかったコウの金髪をウィンは初めて見た。
娼館の頃はいつも髪を黒く染めていたので、結局目にすることがなかったのだ。
せめて出来るだけ見ていようと食い入るように見つめていると、シェルと話を終えたコウがこちらを向いた。ドキリと鼓動が跳ね上がる。
「ウィン」
名を呼ばれた。もう二度と呼ばれることなどないだろうと思っていた相手に。
気づかれていたというのも驚きだったが名を呼ばれたのも驚きだった。
(覚えていてくれたのか…)
そう思うと涙が零れるような気がして、必死に耐えるとウィンはコウへ駆け寄っていった。
もう何も考えられなかった。