文字サイズ

◆アラミュータ(7)

「大変だ、ルーが攫われた!!」
バディが騒ぎ出したのは帰り道のことだった。
突然襲ってきた男たちにペットのトカゲが攫われてしまったのだという。
護衛達はバディの身を守る方を優先し、そのトカゲはそのまま袋に入れられて逃げられたのだという。

(トカゲなんか諦めりゃいいじゃないか。それともそんなに珍しい特別なトカゲだったのか?)

珍しい生き物は好事家に高値で売れるという。そのトカゲもそちらが目的で攫われたのだろう。
バディは街でも高級な宿屋へ飛び込んでいった。さすがは貴族と言うべきかそういう宿屋に泊まれるだけの金があるのだろう。
その宿屋には次代のウェール一族当主が泊まっているという。

「シェル様はバディ様の弟であられますが、一族全員に認められた優秀な後継者であられます」

その弟が泊まっているという部屋へバディは飛び込んでいった。

「シェル、シェルッ!!大変だ、ルーが攫われたっ!!」

褐色の髪と褐色の瞳。落ち着いた雰囲気を持つ青年は兄の訴えにやや呆れ顔だった。

「……どうやって」
「俺の肩に乗ってたんだけどよ、鳥みたいにわしづかみされて革袋に入れられて、そのまま走って逃げられた!!」

シェルは呆れ顔でため息を吐いた。

「全く面倒な…」
「んなこと言ってる場合じゃねえだろ!?ルーが食われちまったらどうする!?」
「あんな不味そうなトカゲもどきを食べるヤツがいるか。ルーだって抵抗するだろ」

シェルは素っ気なく告げた。さすがに次期当主と言われるだけある。実に冷静だ。

「全力でルーを探し出せ。黄竜とは明かすな。黄色のトカゲという名目で探せ」

黄竜!?とウィンは驚いた。黄竜とはまさか七竜の一つのことだろうか。

「さぁて…バディ。言いたいことはあるか?俺はたっぷりあるぞ。大体お前はここがどこか判っているか?判っていながら一人でのこのこと町を彷徨い歩いたというわけはないよなぁ…?」

明らかに怒気を見せて詰め寄る弟にバディは顔を引きつらせて後ずさった。穏やかそうな人物が怒ると怖いというがその典型のようだ。

「ま、まてよ、シェル。俺は…その、他国の見聞をだな…」
「そんなことが護衛なしで歩いた理由になるか。とっとと来い」

シェルはバディを奥の部屋へと引きずっていった。
その様子を見送り、ウィンは側に立つ護衛の男を見上げた。

「弟の方が兄より立場が強いのか?」
「…ご兄弟と申されましても三ヶ月違いであられますので」

ようするに大差ないらしい。
確かにあの弟と兄なら弟の方がしっかりしていて頼りがいもあるだろう。
そしてウィンは黄色いトカゲが七竜の一つ黄竜であることも知った。

(明日からその黄竜探しか…)

うまく見つかればいいが、とウィンは思った。


+++


バディは予想以上にむちゃくちゃな行動を取る人物だった。
黄竜を捜すためだと平気で治安の悪い裏通りへ行こうとし、娼館を娼館と気づかずに入っていこうとしたりする。
明らかに柄の悪い相手の『知っている』という言葉を信じようとしたり、高額な値を吹っ掛けられても、それに平然と応じようとしたりする。

(周囲の苦労が眼に見えるようだな…)

これは予想以上の世間知らずだとウィンは呆れた。
しかも探し方がめちゃくちゃだ。何故娼館や市場の果物屋に黄竜がいると思うのかが謎だ。
こんな探し方では到底見つかりそうにない。
不安を覚えたウィンが護衛の責任者トックに相談すると、トックは判っているというように頷いた。

「すでに手は打ってあります」

だからバディの身の安全だけ考えていただければいいと言われ、ウィンはトックたちがバディをあてにしてないことを悟った。

(…無理もないか…)

ウィンがシェルの打った手の内容を知ったのはその三日後のことであった。