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◆アラミュータ(2)

媚びを売るのは苦手だ。甘えるなんてどうやったらいいのかも判らないし、自分に似合うとも思えない。
ウィンは長身ではないが、男娼にしては背がある方だ。一般的には普通なのだろうが、愛らしい容貌が受ける娼婦街ではそぐわぬ容姿と言える。
それなりに見目は整っているが、眼差しが強すぎて、受けがよくない。目つきの悪さは生まれつきなのでウィン自身諦めている。
男娼は髪を伸ばすよう店から言われているため、背の中程まである。のばしている黒髪は切りそろえたりということはしてないため、毛先は疎らだ。無造作に伸ばした髪はこれまた適当に首の後ろで革ひもで結んでいる。飾り紐を使えと言われているが、綺麗な飾り紐など自分には似合わないと思うのでやったことはなかった。傭兵や兵のようだと言われたこともある。
愛らしい外見でないと客もプレゼントに困るのか、客に贈り物をもらったことはなかった。実際、常連客などコウ以外いないのでもらったことがなくても当然かもしれない。物を貰わなくても困らないが、服やアクセサリーは客に貰うのが普通なので、ウィンの服は同僚たちからのお裾分けか譲ってもらったものばかりだった。それさえも最近は体格差によって乏しい。自分で買うとなると金銭も限られるため、必然的に質もデザインも悪くなった。

常連客は上客にもかかわらず、服を持ってくることはなかった。あまり頓着しない質らしいということは彼の言動からも伝わってきた。実際ウィンの身につけている服に関しても何か言われたことは一度もない。気にしたこともないのだろう。それは喜ばしいような複雑なような気がするウィンだった。まるで意識されていないように感じられたせいだ。
しかしそれが杞憂だと知れたのはある寒い冬の日のことだった。


売れていないにもかかわらず、上客を持っていることで妬まれているウィンはろくな服も持っていないと同僚達にからかわれていた。
気にしたこともなかったウィンだが、そのことを客のコウはどこかで耳にしたらしかった。
ある日店へやってきたのは名の知られた被服家であった。貴族御用達であり、本来色町の男娼の服など手がけるような人物ではないのだ。彼は逆らえぬ方からの依頼だと言い、ウィンの体の寸法を測って去っていった。
以来、ウィンの元には定期的に服が送られてくるようになった。その服の質は店で見る誰の服よりも上質で素晴らしいものばかりだった。

(素性知らねえけど相当なお坊ちゃんなんだろうな、こいつ)

会うたびにウィンはそう思う。
自然な立ち振る舞いの中に目につく気品がコウにはある。命じ慣れた言動はごく自然で違和感を感じさせない。そういう環境の中で育ってきたのだと判る。
色町で客の素性を問うのは御法度だ。ゆえにウィンも問うことはなかったが、つきあいが長くなるに連れ、気になるようになった。
そんなある日、思わぬところでウィンは相手の素性を聞いた。