一方、サヴァは頼りなく周辺を見回していた。
感情にまかせて、一気に走ってきたものの、気づいたらどこなのか判らないような場所に迷い込んでいた。
夜の庭は暗い。一応、空に月はあるものの、建物からの明かりが殆ど届かない庭の奥では視界も覚束なかった。
「ちくしょう…どこだよ、ここ…」
とりあえず明かりを捜して十数分ほど彷徨い歩いていると、白と金のテーブル、椅子が置かれた場所に出た。闇の中にうっすらと建物の影も見えた。サヴァは少し安堵した。どうやら徹夜で庭を歩くという事態は避けられそうである。
「何とかなりそうだな…」
「サヴァ!」
「あ……えっと、確かコウの兄貴…」
「リードだ。リドでもいいが、名ぐらい覚えて欲しいぞ」
呆れ顔で告げたリドはサヴァが一人であることを見て取ると眉を寄せた。
「お前、コウに会ってないのか?お前を捜すため、先に庭に出たはずだが」
「会ってねえ……どう歩いたかも覚えてねえし…」
「そうか。しかし結構歩いたようだな。奥宮から結構あるぞ」
「迷ってたし…」
喧嘩をした後だ、どうにも気まずくてうつむき加減に答えていたサヴァは背後の影に気づかなかった。
そのため、先に気づいたのはサヴァと向き合っていたリドだった。
「サヴァ、危ない!!」
驚いて振り返ったサヴァが目にしたものは短剣を振りかざす少女とそれを阻止しようとするリドの姿だった。
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一瞬の差だった。
リドは少女より体格で勝っていたが、サヴァを庇おうとしたために動きが遅れた。
鋭い銀色の細い刃はリドの体に吸い込まれるように刺さった。
「リド!!てめえ、何しやがる!!」
「貴方がいることが悪いのよ。貴方みたいな卑しい人間がコウさまに選ばれて、私が選ばれないなんてあり得ないわ。コウさまは貴方に騙されているのよ」
「リド!!しっかりしろ!!誰か!!!誰か来てくれ!!!」
サヴァの叫び声に、サヴァの捜索をするため庭にでていた騎士たちが声を聞きつけて駆け寄ってきた。
一人が少女オリガを取り押さえ、一人が事態を知らせるために足早に去っていく。
力なく倒れるリドの傷口を必死に抑えつつ、サヴァは己の無力さを痛感していた。
自分が狙われていたのに何もできず、ただ助けられるばかり。今、リドが自分のために倒れているのに何も出来ないのだ。
『リド、コウ、すまねえ……』
サヴァはただひたすらにリドが助かるよう祈った。