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◆にわとり印のパン屋の話(その21)



黄茶色の髪の子供セリルが体調を崩してしまった。
熱さにやられたのかな。
店を開けるわけにもいかないし、コリン一人じゃまだ店番には不安がある。
どうしようかと焦っていると、たまたまシード様がご来店された。

「そりゃ大変だな。パンを売るぐらいなら俺でもできるだろ。その間にうちの医務室へ行ってこい。俺が許したと言っておけ。あとで話をしておくから」

シード様が店番をしてくださるらしい。
いくら何でも副将軍さまを店番になんて、と思ったが、子供の方が大事だろうと怒られた。
コリンにシード様をちゃんとお助けして留守番しておくようによく言いつけ、俺はセリルを背負って医務室へ向かった。
幸い、医務室の先生はとてもいい人で、シード様からの伝言なしでも快く診てくださった。

「風邪だろう。栄養のあるものを食べて良く休めば大丈夫だよ」

先生はそう言って、お薬を下さった。酷い病気じゃなくて良かった。
先生のご好意で閉店時間までセリルを預かっていただけることになり、安心して店へ戻ると売り切れの看板が出ていた。
売り切れ!?せいぜい1時間ぐらいしか経ってないと思うんだけど、売り切れ!?あり得ない!
驚いて店へ入ると、シード様がうちの店の狭いテーブルで読書中だった。

「パン屋って忙しいんだな、驚いたぞ」

とシード様。いや、普通こんな短時間じゃ売り切れません。一体、何があったんですか?

「いや、普通にパンが売れただけなんだが。子供は大丈夫だったか?」

はい、風邪でした。ご迷惑おかけいたしました。夕方まで預かっていただくことになりましたのでもう大丈夫です。

「そりゃ良かった。ゆっくり休ませてやれ。じゃ、俺は執務室へ戻るな」

そう言うとシード様は帰っていかれた。
本当にいい人だな。今日は感動した。
最初にお会いしたときは目つきが悪くてちょっと怖いイメージだったのにこんなにいい人だなんて思わなかった。人気があられるわけだ。
今度お礼をしなきゃいけないな。
それにしてもこのパンの売れ行きってどういうことだろう。食堂が閉店でもしていたんだろうか。驚くなぁ。

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