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◆にわとり印のパン屋の話(その19)


第一軍からパン籠が届いた。
俺が第五軍内でパン屋をしていることが伝わったらしい。
ちなみに籠を持ってきてくださったのは第五軍に用があったというラーディンさんだ。

「うちの将軍はここのパンが大好きなんだ。ニルオス様に余計なことをされたと不機嫌だったぜ。第一軍にも空き店舗があるんだよ」

ありがたい話だ。
籠に入っていたお金を貰って、メモを見つつ、パンを入れる。
ラーディンさんも自分のパンを買ってくださった。しっかり二色パンを買ってくださったところがラーディンさんらしい。

「久々にあいつと食えるな〜。よかったら第一軍にも支店を作ってくれよ。みんな残念がってるぜ」

本当にありがたい話だ。
弟子でも育ててみようかな…と思っていたら本当に弟子を雇うことになった。
提案者はザジさんだ。

「今は軍直営だからウェールのお店に得はねえが、将来的にはその店舗の場所を借りて経営ができる。将来性を見込んで弟子を育てるのは悪くねえからな」

とのことらしい。
幸い、売り上げは順調に伸びていて、人手不足を感じていたところだからちょうどよかった。
費用などはザジさんがウェールのお店経由で出してくださるそうだ。
ザジさんが連れてきてくれたのは二人の子供だった。歓楽街育ちの子供で店から引き取ったらしい。そういう子供は歓楽街では珍しくない上、男の子は見目がよくなかったら煙たがられる。恐らく、店は喜んで子供を差し出しただろう。そんな光景が目に浮かぶ。
男の子はどっちも十代前半だろう。痩せていて、不安げな顔をしているその姿は今まで幸福だったとは到底思えない姿だ。自分が奉公に入った年頃を思い出す。可愛がってやろうと思った。
黒髪黒目の方がコリン、黄茶色の髪の方がセリルというらしい。

「いいか?腕のいいパン屋になれよ。将来的には店を任せるからな。一流のパン屋になるんだぞ」

近衛軍すべてに支店を出すぞと目標を告げると不安げな顔だった男の子たちは目を輝かせた。
初めての場所で不安そうだった子供だが明確な将来図が見えて嬉しくなったんだろう。
恐らく今まで毎日を生きることに必死で夢を見ることすらできなかったんだろう。
やる気があるのは良いことだ。

そうして二人の子供と共に仕事を始めて一ヶ月後、メイさんがやってきた。
メイさんは俺の徴兵のため、三ヶ月ほどお休みだったんだけれど、第一軍に正式にパンを納品することが決まったんでお昼時だけの配達と販売を頼んだのだ。
具を揚げたり切ったりするだけの単純作業なら子供も問題なく出来るようになったんで、作業効率もアップした。そのため、パンの納品も可能になったのだ。

「俺も弟子入りしようかなぁ」

とメイさん。俺はかまいませんが、そうなると勤務時間も長くなりますよ。ご家庭は?
そう問うたらメイさんの目が怖くなった。

「ああ。離婚を考えてるんだ」

ご家庭は修羅場中らしい。
何とも大変な話だ。

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