文字サイズ

◆にわとり印のパン屋の話(その18)



徴兵の間、近衛第五軍でパン屋をすることとなった。
そう告げるとザジさんはあっさりと、幸運だったなと言ってくれた。
そのザジさんはパスペルト国に国籍があり、貿易商人扱いのため、徴兵はないのだそうだ。ちょっと羨ましい。

「そうなると当分の間、第一軍のお客様とは会えなくなるわけか。フン、ラグディスとも会わずに済むのはいいことだ」

そうぼやくザジさんは内容とは裏腹にちょっと残念そうだ。

そうして向かった第五軍本営は第一軍本営よりも新しくて綺麗な建物だった。
規模的には大差がなさそうだけれど、同じ近衛軍でも特徴というか個性がでるものなのかもしれない。第五軍はどことなく上品な雰囲気があった。
近衛軍は一つの軍が最大一万名という大所帯だ。
常に一万人全員が軍に詰めてるわけじゃないけれど、それでも何千人もの人が本営で働いている。そのため、食堂や売店も一つじゃなくてたくさんある。そしてそれぞれ兵士向けや騎士向けのようにランクが違うらしい。

「騎士向けの店に一般兵が入れないというわけじゃないんだが、金額が高いから避けられるんだ」

そう教えてくれたのは隣の店舗のジャンさん。ジャンさんは30代の男の人で、研ぎ屋さんだ。仕事内容は武具の整備らしい。
軍内部の店には二種類あって、軍直営の店舗と場所代を払って民間人が経営している店舗があるそうだ。
俺は今回、徴兵扱いなので直営になるけれどジャンさんも直営らしい。お父さんの代から軍に雇われているそうだ。

ちなみに本営内は広くって、店舗もあちらこちらに散らばっている。端から端まで歩こうとしたらかなりの距離なので時間がかかるだろう。そのため、店も点在しているらしい。
ちなみに俺がいる第二区店舗という場所は経営的には微妙な場所なのだそうだ。
入り口からやや離れている上、この先は幹部向けの執務室が固まっているため、軍幹部以外の通行が少ないらしい。
店も俺のパン屋とジャンさんの研ぎ屋とリトおばあさんのマッサージ屋さんしかない。
俺とジャンさんは直営だから売り上げが微妙でもまだマシだけど、リトおばあさんのマッサージ屋さんは民間経営になるらしい。
おばあさんのマッサージ屋さんって大丈夫なんだろうか。

「あ、全然問題ねえぞ。いつも予約入ってるし」
「そうなんですか?」
「シード副将軍なんて常連だぞ」
「へえ……」

マッサージ屋さんのお世話になるなんて軍人さんもいろいろ大変なようだ。
将軍の方々も大変なんだなあ。

<END>