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◆にわとり印のパン屋の話(その17)



ウェリスタ国には徴兵がある。18歳から30歳までの間に二年間行うことが義務づけられている。
俺は二十代半ばだからそろそろ徴兵に行かなくてはいけない。その間、パン屋は休店だ。
けれど手に職を持っていた場合、その仕事に従事することが多くなるため、俺は厨房関係の仕事を行うことになるだろうと思う。むろん、他の可能性もあるけれど。
お客様にその話をしたら、お客様のグリークさんは困り顔になられた。

「徴兵がまだだったのか。困ったな。うちの上司の機嫌が悪くなりそうだ」

そう言われても徴兵は義務だから仕方がない。

翌日、俺は初対面のお客様を迎えた。

「徴兵があるそうだな」
「はい、そうなんですが…」

俺は痩せてちょっと目つきの鋭いお客様に紙を差し出された。
紙にはぎっしりと文字が書かれていた。紙質や押されている印鑑の立派さから、何やら大層な書類のように思える。

「第五軍本営内に空き店舗が一つある。その店舗にてパン屋を運営しろ」
「…えっ…?」
「売り上げは軍のものになるが、その代わり、費用も軍持ちになる。戦場に出て、死ぬよよりマシだろうが?違うか?」
「はっ、はいっ!」
「第二軍には今まで通り納品しろ。いいな?」
「はっ、はいっ!」

なんだか怖いお客様は命じ慣れた口調で俺にそう告げると、幾種類かのパンを買い、今からアルディンに承諾を得てくると言って去って行かれた。
結局、今の方はどなたなのか判らなかった。
それより、アルディンって第五軍将軍様のことかな。
今から承諾ってつまり事後承諾だったのかな。
判らないことだらけだけれど、俺は徴兵期間、第五軍でパン屋をすることになりそうだ。
ザジさんに話をしておかなきゃいけないな。

<END>