文字サイズ

◆にわとり印のパン屋の話(その16)


いつものようにパンを焼いていたら、楕円形のパンが二つくっついて、ハート型っぽくなってしまった。
いつもはそんな失敗パンを店頭に出すことはないんだけれど、メイさんが面白がって他のパンと一緒に店に並べてしまった。
結果的にそのパンは週末の常連さんであるラーディンさんに売れた。反応は俺が見たところ、上々だった。
案外、可愛い感じのパンも売れるのかな。
お客様の大半が軍人さんだからあえて作ってこなかったんだけれど、花街で作っていたような女性向けのパンを置いてみてもいいのかもしれない。

翌週、ラーディンさんがやってきた。
ハートのパンについて問うてみたところ、苦笑された。

「買ったときはいいなって思ったんだけど、考えてみりゃ食べるときに割るんだよなー。ちょっと不吉だよな。やっぱパンは楕円でいいよ」

とのことだった。
なるほど。ハートは却下と。
ちなみに一緒に分けあって食べたお相手さんは何も考えずに食べ、美味しいと言ってくださったそうだ。形に拘らない人らしい。

ちなみにこの日は新商品のピザパンが異様に売れた。
新商品開発はやってみるものだなぁ。

<END>