文字サイズ

◆にわとり印のパン屋の話(その14)


大雨が降って、風も強く、営業どころじゃなくなった。
基本的に温暖な気候のウェリスタの王都だけれど、ごく希に嵐がやってくるのだ。
俺も材料の小麦粉などが濡れないように対策に大わらわだった。

嵐が去った翌日、俺は焼いたパンにフレッシュチーズを挟んだだけというシンプルなパンを大量に作って店に出した。
大掃除や片付けに大わらわだったんだろう。殆どの飲食店が閉まっている中、パンは飛ぶように売れた。
ザジさん曰く

『人の心理を読み、人がしないようなことをしろ』

という教えに従ったのだ。
どんなときも商売人根性で売り上げをのばすのがウェール一族の基本信念のひとつだという。
ちなみに第二軍への納品も同じパンを出した。手の込んだパンを作る余裕がなかったからだ。
結果的にそのパンは第二軍将軍に喜ばれたらしい。

『読みながら食べるのにちょうどいいサイズ』

だったのだそうだ。やや小振りなところがうけたらしい。そんなところが気に入られるなんて思いもしなかった。
むしろ普段より手抜きだと叱責を受けたらどうしようと思っていたんだけれど、そこら辺は嵐の翌日でも納品されたということで高評価に繋がったようだ。

「具が零れにくいのもいい」とのことだったらしいけれど、野菜や肉はなるべく使用してくれと部下の方から依頼を受けているのでどうにもできない。俺に依頼してくださっているのはその部下の方だし、なるべく栄養があるものを取って欲しいんだそうだ。上司思いのいい部下さんだと思う。

それにしても読みながら食べるのにいいサイズ、かぁ。
当店のパンは読書用には作られておりませんし、衛生的にもどうかと思われますので、食事中ぐらいは本から離れて食事してほしいと切実に……って、ハッ!!
もしかして、以前、ご要望をされた方は第二軍のニルオス将軍なのか!?

<END>
やっと気付いたという話