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◆にわとり印のパン屋の話(その13)


売り上げ報告のため、ザジさんの元へ行くと、本店から小さな看板が届いていた。
小竜型の小型看板はウェールのお店の証であり、本店だけが作れる品だという。

「これでお前も正式にウェールの支店だぞ」

とザジさんに言われたけれど、看板が届くまで一年以上かかっている。いくら何でも遅すぎじゃないかと思ったのはザジさんには内緒だ。

「これ、偽物の可能性とかないんですか?」
「裏にルーの足跡があるだろーが」
「……あ、確かに」

裏に小さな足跡らしきくぼみがある。これが黄竜の足跡であり、本物の証らしい。
看板はにわとり看板の下に取り付けることにした。
ちなみに看板が小竜型なのは本店にいる黄金竜をモチーフにしているらしい。
黄竜は幸運の竜というから、幸運を支店にも運んでくれるといいなと思っていたら、それは間違いだとザジさんに言われた。

「運なんて不確かなものをあてにせず、自力で何とかするのがウェール一族らしい姿だ。間違っても黄竜はあてにするんじゃねえ。幸運と一緒に盛大なトラブルを呼んでくる奴だからな。小竜の看板は『他人をあてにしていたらトラブル続きになる』という訓戒を意味していると思え」

黄竜も、黄竜の看板もお守りにならないらしい。

「祈るならルーじゃなく、真っ当に神々に祈れ。ただし、どうにかしてくれと祈るんじゃなく、今日もありがとうございましたって祈るんだぞ」

それが正しい姿だとザジさん。
なるほど……。
看板には712と小さく彫られていた。
うちの店は711番目だと聞いていたんですが、間違ってたじゃないですかザジさん。
え?どうでもいい?まぁそうですけどね。

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