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◆にわとり印のパン屋の話(その12)


販売の方に人を雇うことになった。
週4〜5回ほど働いていただけるらしい。残りはザジさんが入ってくださるそうだ。
その人は顔見知りの相手だった。花街でパンを買ってくださっていたお客様だ。

「メイさん、お久しぶりです」
「うん、久しぶり」

メイさんは綺麗な金髪を持つ小柄な人で元男娼だ。
今は引退し、北区に住んでいるらしく、俺の家と店に通えるそうだ。
お金持ちの人に身請けされ、お金に困っていないものの、ずっと家にいたら息が詰まりそうだということでちょっと働ける場所を探していたらしい。

「接客なら得意だから」

とメイさん。さすが元男娼だ。

早朝の販売を頼んで数日後、メイさんが笑顔だった。

「初恋の子に会ったよ。出世しちゃってさ、噂には聞いていたけどびっくりしたよ」

相手は軍人さんらしい。

「偉くなったのに雰囲気が全然変わってないんだ。それは彼の良いところであり、悪いところでありってところかな。少しは貫禄が付けばいいのに。まぁ仕事場じゃ貫禄がでているのかもしれないけれどね」

相手に未練があるのかと思えばそんなことはないらしい。

「彼のことはいい想い出になっているからね。ちゃんと本命はうちの旦那だよ」

頼りないところが好きなんだ、とメイさん。
ちょっと変わった好みらしい。

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