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◆にわとり印のパン屋の話(その10)


忙しくなってきたので人を雇うことにした。
お金を任せるわけだから信頼できる相手じゃないといけない。
ザジさんに相談すると、さすがにすぐには見つからないけど、探しておいてやると言ってくださった。
しばらくはザジさんの店から手伝いをよこしてくださるらしい。

…と思ったらその手伝いの人はザジさん本人だった。
パン屋は朝が忙しいので歓楽街のお客様相手が多いザジさんには辛いんじゃないだろうか。なんだか申し訳ないな。
案の定、欠伸を噛み殺してばかりのザジさんは怠そうだ。
…と思っていたら、いつも朝、店に来てくださるラグディスさんと険悪になっていた。

「やる気がないんでしたらお帰りになられて眠られたらいかがだ?そんなやる気のない態度じゃ彼にも迷惑でしょう」
「ラーザは俺の弟子だからいいんだよ。大体テメエみてえに店にケチつけるような客はこっちからお断りだ」
「店にケチつけているわけじゃなく、だらしがない店員に苦情を申し上げているんだが?」
「ハッ、ものは言い様だな。とっとと帰れ。長々と店に長居して他の客の邪魔をするような奴は迷惑なんだよ」

ものすごく冷ややかな毒舌が飛び交ってる。
何でそんなに険悪になるんですか、ザジさん、ラグディスさん。
相性が悪いのかな。ザジさんは他のお客様には愛想がいいし、ラグディスさんも俺には普通の態度なのに。
本当にわけがわからない。
…と思っていたら、ザジさんがパンをラグディスさんにひょいと投げ渡していた。さすがにこれは見逃せない。
ザジさん、それは商品なので丁寧に渡してくださいっ!

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