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◆にわとり印のパン屋の話(その7)


うちの店は材料がいい。
他店より小麦粉やバターも高品質のものを多めに使用している。
それは育ての親から教わった作り方なんだけれど、そうすると材料費が高くつくため、パンの値段もそれなりにあがる。総菜パンなら尚更だ。それでも売れるのは高給取りの軍人さんが主な相手だからだろう。
ちなみに材料はウェール一族繋がりの相手から仕入れている。持ってきてくれるのはハーマンさんとおっしゃる初老の方だ。元冒険者で今は配達専門で働いていらっしゃるらしい。
そんなある日、ハーマンさんが来なかった。代わりにやや遅めの時間に配達してくださったのは三人組の傭兵さんだった。
ハーマンさんに何かあったのだろうかと心配していたが、確かに何かあったらしい。

「ぎっくり腰で道に倒れててな。医者に運んできた」

と傭兵さん。たまたま通りかかり、医者に運んだ後、荷を頼まれて運んできてくださったらしい。

「まぁついでだしな。王都に用があったんで」
「そうだ、パン屋さん!鏡だらけの部屋がある連れ込み宿ってご存じないッス!?」
「この馬鹿!!初対面の相手にとんでもないこと聞くんじゃねえっ!」

ゴンッと勢いよく頭を殴られている黒髪の元気な傭兵さんを気の毒に思いつつ、俺は口を開いた。

「知ってますよ、地元ですから。イライダ通りってところにある白い看板が目印です。イライダ通りを訪ねていけばたどり着けると思いますよ」
「やった!俺の勝ちっ!パン屋さん、ありがとーございますっ!!」

黒髪の傭兵さんはとても嬉しそうだ。
逆に藍色の髪の傭兵さんは真っ赤な顔で横を向いて舌打ちしている。
一番大柄な傭兵さんはそんな二人に苦笑顔だ。

「いえ、こちらこそ材料を運んでいただきありがとうございます。明日、焼きたてパンをごちそうしますのでどうぞ店にお越し下さい」

そう告げると三人組の傭兵さんたちは喜んでくださった。

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