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◆にわとり印のパン屋の話(その4)


軍には月末締めという魔の期間があるらしい。
…というのも常連さんがそうおっしゃっていたからだ。
それは俺にも判る。ザジさんが毎月決まった時期に鬼気迫る表情で売り上げなどを計算してらっしゃったからだ。
俺は個人経営の小さな店だからそこまで大変じゃないけれど、軍のように大きな組織になるとそれだけ大変なんだろうなって思う。何しろ近衛軍は第一軍だけでも約1万名という大組織だからだ。
ちなみにその月末締めの時期は俺にとっては売り上げアップの時期だ。
常連さんの中には専用の籠を自分で用意してくださっている方もいらっしゃるけれど、会計課の人たちもそうで、締めが迫っている時期はいつも大量の予約が入る。
大きな籠に大量の総菜パンを積み上げ、部屋の真ん中に置いてあるらしい。籠の横にあるトレーに金を入れてパンを持って行けるようにしてあるとか。
そして各自が食べれるときに食べて栄養補給をし、昼夜関係なく仕事をしているという。
そのせいか、配達時間も微妙な時間だ。日が完全に落ちた後という時間帯で夕食にも遅い時間帯に配達希望なのだ。

お客様曰く

『食堂とか店も閉店する時間帯からが切実だから』

仕事に夢中になり、食事もし忘れ、我に返ったときには店も閉まった後。
そんなときにパンがあれば助かる。

という理由らしい。
それにしてもあんなに大量のパンがなくなるんだろうか。
毎回30個も納品しているんだけれど。

「むしろ足りないこともあるよ。隣の総務課にも売れているし、武具管理課も買いに来るから」

締めの時期はどこも徹夜組が多く、売れ残ることはないらしい。
軍って本当に大変なんだな。

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