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◆にわとり印のパン屋の話(その3)


下や横に穴が空いていて、内側に突起がついている特殊なツボは焼き物に使えるツボだ。
中に燃料を入れ、上に網を置くと物を焼ける。
内側の突起に針金などを引っかけて内側で焼くこともできる。燻製や焼き芋はこうする。
もちろん、ただ暖を取ることもできるので便利な移動型の暖房用具だ。
初めは冬場に暖を取るために小さなツボを置いていたんだけれど、ある日焼き芋を作っていたらお客様に売ってほしいと言われた。
以来、決まった時間に決まった個数だけ、芋を焼いている。
クリーム色の髪のお客様は焼き芋好きな常連さんだ。ドゥルーガという同居人の方と分け合って食べるのがお好きらしい。

「焼き芋を一つ。…あ、二色パンがある」
「焼き芋一つですね、毎度っ。はい、二色パンは人気商品です」
「そうか。最近よく貰うんだ」
「そうですか、ありがとうございます。はい、どうぞ。ドゥルーガさんはお元気ですか?」
「あー、……うん、たぶん」

焼き芋を渡しながら何気なく問うと、お客様は右手を見ながら頷いてらっしゃった。
手がどうかしたのかな?手甲をはめてらっしゃるだけだと思うんだけれど。

ちなみにザジさんはときどき店の様子を見に来て、手伝ってくださる。
けれど今日は常連のラグディスさんと険悪な雰囲気だった。
ザジさん曰く、あちらから喧嘩を売られたとのことだけど、ラグディスさんは大切な常連さんだから一歩退いて接して欲しいと思う。
…というか何で険悪になってるんですか?

「知るかっ!喧嘩売られてるのはこっちの方だ!」

ザジさん、もう30過ぎなんですからもっと大人になってください。

「俺は十分寛大に接したぞ!まだ朝は寒いからわざわざコーヒーをくれてやったのに、熱すぎるだの、ミルクなんか入れるなだの、細かくケチをつけやがった!ただでくれてやったというのに!」

ザジさん、それが原因だと思います。ラグディスさんは猫舌でブラック派です。

「あの豆はカフェオレで飲むために作られた豆だっ!」

いや、ザジさん。ラグディスさんはブラック派ですから。

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