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◆紅き竜と嘆きの器(6)


七竜中、もっとも攻撃力が高いと言われ、青竜ディンガと共に歴史に登場することが多いのが紅竜リューインだ。
青竜と紅竜は戦闘好きと言われ、戦場にも好んで現れるという。
翌日、唐突に現れた紅竜リューインを見せ物小屋の男達は恐れなかった。
その逸話は十分知られているかと思われたが、見せ物小屋の男たちは手のひらサイズの小竜に対し、恐怖心を抱かなかったらしい。

「なに、ちょっと火を噴くだけだ。とっつかまえてしまえ。いい掘り出しものになるぞ!!」
「炎の印封じのアイテムをつければ動きを封じられるだろ」
「そんなにちいせえんだ。網でとっつかまえろ!!」

小竜へ飛んできたのは鎖で出来た頑丈そうな投げ網であった。
同行した傭兵たちとジダンはそれをただ見ていた。

『俺には絶対近づくな。十分に距離を取っていろ。絶対にだ』

紅竜は突入前にそう言っていた。
そのため、ジダンたちは紅竜が鎖の網で捕らわれても慌てず、ただ遠くから様子を見ていた。

「よしよし…捕まったな」

紅竜は男が近づいてくるのをただ見ていた。
そして。

「ぎゃああああああああ」
「鎖の網が!!」
「馬鹿な、鋼でできているんだぞ!?」

紅竜を捕らえようと手を伸ばした最初の男は瞬く間に真っ黒になり、かろうじて人だと判る影の状態となって床に崩れ落ちた。
紅竜を捕らえた鎖がどろどろと溶けていく。
紅竜に触れた武器も一気に溶け、溶岩のように流れ落ちた。
それは熱だ。
鋼すらも溶かし尽くす強烈な熱が、局地的に発生しているのだ。

「ヒ、ヒィイイイイッ」
「逃げろ!!!」
「逃げろ、かなわねえ!!」
「助けてくれー!!」

高熱をまとう竜にかなわぬと悟ったのか、男たちが逃げ出す。
しかし、紅竜は冷静だった。
深紅の気が走ったと思った瞬間、逃げ出した数人の男は一瞬にして黒い灰となってかき消えた。文字通り、一瞬にして消し炭となって消滅したのだ。
周囲に被害はない。天幕も地面も変化はない。紅竜がそうコントロールしたのだろう。

(なんて攻撃力だ。さすが七竜一と言われているだけあるな。武装していようがしていまいが、この強さじゃ全く関係ねえってわけか)

ジダンは紅竜のあまりの強さにゾッとしつつ、雇った傭兵たちに、捕らわれている者たちを救出するよう告げた。
その側にふわふわと紅竜が飛んできた。

「赤ん坊は無事か?」
「まだ何とも。無事生まれてくれればいいが…」

どうやら七竜は赤子に弱いらしいと思いつつ、その出生を考えると複雑になるジダンである。恐らく赤子は強姦の末に孕んだ子だろうからだ。
そこへ入り口の布をはねのけて、一人の男が入ってきた。長い金髪に冷静そうな雰囲気を持つ、頭の良さそうな男、リーレインだ。

「もういいか?患者はどこだ!?」
「この奥の部屋だ」
「リーレイン、待てって言ってるだろ!危ないって、まだ!」

その医師を慌てて追ってきたのはジークだ。
まだヤバイ、危ない、と言いながらリーレインを引き留めようとしている。

「ジーク様、もう大丈夫です。我々がお守り致します」
「そ、そうか…」

言いながらも、本当に大丈夫なのか?とジークは周囲を見回している。リーレインを相当溺愛している様子が伺えた。
リーレインはというとそんな相手の様子は眼中にないらしく、患者がいる奥へと走っていった。

「おい、リーレインッ、危ないって!!」
「ジーク、産婆さんも呼んであっただろ?すぐこっちへ来てくれるように言ってくれ!!もう動かさない方がいい」
「判った、呼んでくる!」

ジークはリーレインに返答し、ジダンを振り返った。

「ジダン、リーレインを守ってくれ。いいな、絶対守ってくれ。何が何でも守ってくれ!!」
「は、はい」

ずいぶんベタ惚れらしく、しつこいほど言い置いて去っていったジークを見送り、ジダンはロブと顔を見合わせた。

「守るといっても……」
「もう大丈夫だよな」

奥には紅竜も入っていった。赤ん坊のことを気がけていた竜だ。何かあっても必ず守ってくれるだろう。ジダンたちの護衛はほとんど不要だ。
やがて産婆がやってきて、同じように奥へ入っていった。
出産は難産となった。
母親の体力が極度に落ちていることもあり、厳しいかと思われた出産だが、リーレインはとても腕がよかった。経験豊富な産婆と腕の良い医師のおかげで何とか母子共に救うことに成功した。