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◆紅き竜と嘆きの器(2)


明るい茶色の髪と緑の瞳を持つ青年はシェルより少し年上で二十代半ばといったところだろうか。
人好きのする笑顔は少々軽く感じられるが、概ね、人に好感を与えるものだ。
茶色の旅用マントを羽織り、背には大きめの鞄を背負っている。
シェルの父方の従兄弟であるジークシェインというのが彼の名だ。
放浪癖が酷く、年中、旅をしているが、商人としての腕は本家に認められているという人物である。

「久しぶりですね」
「あぁ、本当にな!」

一人旅を好む相手だが、今日は連れがいた。ストレートの長い金髪を一つに束ねた冷静そうな雰囲気を持つ、頭の良さそうな男だ。
男はポケットの多いコートに大きな肩掛け鞄という姿であった。この世界の医師や薬師に多い姿だ。

「シェル、紹介するよ。俺の……」
「友人の!!リーレインだ、よろしく」

ジークシェインの紹介を横から強引に奪うように名乗った男は手を差し出してきた。
何やら事情がありそうだと思いつつ、シェルは名乗り返しながら、手を握り返した。
続いてバディが名乗っているのを見つつ、ちらりと足元を見ると、従兄弟が何も言うなと言わんばかりに足を踏まれているのが見えた。
何となく理由を察し、シェルは口を噤んだ。余計な口出しをしない方が従兄弟の為になるだろうと思った為である。

「君が本家のリースティーアか」
「すげえ!初対面で気付かれたのは初めてだ!何で判ったんだ?」
「俺も同族なんだ」
「そうなのか!!じゃあ、アンタもお袋がリースティーアなのか」

リーレインはバディと同じリースティーア(両性)であったらしい。
意気投合している様子を見つつ、シェルは従兄弟に同じ宿に泊まらないかと声をかけた。

「貸し切っていますから、空き部屋をご用意できるかと思いますよ」
「そりゃ助かるな。あ、ベッドは…」
「俺は個室希望だ。別部屋で頼む」
「えええ!!リーレイン〜っ!!」

嘆く様子を見つつ、シェルは用意していた書類を取り出し、従兄弟の腕をがっしりと握った。

「ジーク殿、今から支店の視察にまいります。時間が迫っていますので急ぎますよ」
「へ?何で俺もっ!?」
「貴方の商人としての手腕は聞き及んでいますから期待していますよ。父にはよき評価を伝えておきますのでしっかりお手伝い下さい」
「えええっ!!??」

そこでリーレインと話をしていたバディが嬉しげに振り返った。

「シェル〜!この町、見せ物小屋が来てるんだって!リーレインさんと見にいっていいか?」
「護衛を付けていくならな。ジダン、ロブ!バディの護衛をしっかり頼んだぞ」
「はい」
「了解」
「えええええっ、リーレイン〜っ!俺も〜っ!」
「しっかり働いてこい」
「ジークさんはダメです」

商人としての腕は確かな従兄弟の目も借りられるのはありがたい。
よき人材を逃がすつもりは全くないシェルであった。