アルドと共に海軍の二強と言われるマックスはやや冷たさを感じさせる端正な容貌の主である。
無事、店へ戻ったクロウはそこでマックスと出会った。フィーが港に張り込んでくれていて、店へ連れてきていたらしい。
彼はアルドの無事な姿を見て、ホッと顔を綻ばせた。
「アルド、無事だったか、良かった!!」
「マックス、お前こそ!!」
無事を喜び合った二人は、思わぬ人物の姿に驚いていた。
「シード殿!?何故ここへ!?」
「このままではいつ処刑されるか判らないということで、助けに来てくださったんだ」
「そうか、ありがとうございます」
頭を下げられた護衛のシードは、いや、と微妙な表情で頷き返している。成り行きで助けたので気持ち的にすっきりしないのだろう。
「ところでお二人、隠れていなくていいのか?」
「大丈夫です。ミスティア家がこちら側につきました。今から勝負を賭けます」
きっぱり言い切るマックスにクロウは驚きつつも頷き返した。どうやらクーデターが起きるらしい。面白いことになったなと思った。
「ボルス将軍以下、側近の方々がシーサーペントの波で亡くなられました。今がチャンスです」
ボルスのおっさんは亡くなったのか、とクロウはちょっと驚いた。生存確率は半々程度だろうと思っていたが、実際に聞けば少々寂しい気がするクロウである。
「今は一人でも多くの戦力が欲しい。シード殿、あと一日お付き合い下さい」
「まじかよ!」
マックスに頼まれ、シードは顔を引きつらせている。
どうやら護衛は海軍のクーデターにも付き合わされるらしい。しかしアルド救出に関わってしまった以上、逃れられないだろう。原因の半分が己だということを棚に上げ、気の毒だなとクロウは同情気味に思った。
「あー、頑張れ。金色のトカゲは俺が責任持って探しておいてやるから」
当のトカゲが本家の黄竜だと未だに気づいていないクロウであった。
++++++
翌日、港町ギランガに渡ったクロウは本家のシェルに会った。
「金色のトカゲ?ああ、うちのルーのことか。実はな…」
クロウはシェルに成り行きを説明され、ため息を吐いた。
(原因はルーかよ。相変わらずだな…)
そのせいでシードは、ルーを探しにあちこち回り、その途中でクロウに雇われ、アルド救出に付き合わされたあげく、クーデターまで巻き込まれたのだ。
(けどさすが『幸運の竜』だな)
トラブルを起こす名人であるルーだが、いつもただでは起きない。
今回はシードを巻き込んだおかげでアルドとマックスという海軍の二強を海軍トップにすることに成功させている。
いくらミスティア家の後ろ盾があったとはいえ、戦力が確かでなければこうもスムーズにクーデターを成功させることは出来なかっただろう。多少強引とはいえ、海軍のトップ入れ替えを成功させたのは『近衛軍』というもう一つの後ろ盾をちらつかせることができたが故だ。
シード自身は不本意だったようだが、ここまで巻き込まれては知らぬ顔はできない。うまくやるさとため息混じりにぼやいていた。
ちなみにシード当人はたまたま婚約者に会いに来ていたところだったという。そこでルー探しに巻き込まれたそうだ。会いに来た相手はギランガの頭領だというので、クロウはよろしく言ってくれと頼んでおいた。
思わぬところで地元の有力者にまで伝手が出来、クロウ自身も得をした気分である。
「結婚式には是非呼んでくれ!大商人ウェール家はどんな品でも世界中の支店から取り寄せてみせるからな!ぜひぜひ、ウェール家をよろしく!」
「あんた商売上手だな。わかった、その代わり安くしろよ」
「あぁ今回の借りがあるからな。盛大な式を演出してやるよ!」
クロウはシードが『婚約者』と言っていたので、もう結婚は決まっているのだろうと思った。
実際は『婚約者』から一向に進展がない二人だったのだが、知るよしもないクロウはしっかりとウェディングプランを練り、ギランガの頭領ベルクートの元を訪れ、具体的な式の案を提案した。
「シード殿には今回大変世話になったからな。ウェール家は恩は倍返しするってのが家訓なんだ。他にもやりたいことがあったら遠慮無く言ってくれ!本家の許可も得てあるぞ!」
太っ腹のつもりのクロウだったが、それを聞かされたベルクートは『シードは結婚をしたがっていたのか』と内心大慌てだった。
「そ、その。俺はまだ何も具体的には考えていなくて…」
半ばパニック状態のベルクートに対し、クロウは脳裏で金貨の音を聞いた気分だった。
「なんだ、そんなことか。誰だって再婚じゃなきゃ、結婚式は始めてさ。俺に任せておけってご頭領。ちゃんとウェディングプランは考えてあるから!これをやれば、どんな相手も、うっとり、惚れ直すこと間違いなしだ!……まずはご両親にご挨拶…そのとき持っていく引き出物は…一応ランクがあってな、最上級の引き出物は……」
(貴族の結婚式は大儲けできるからな〜!絶対逃さないぜ!!)
貴族相手の結婚パターンの一覧表を見せつつ、いつの間にか倍返しは消え失せ、しっかり脳裏で金勘定をするクロウであった。
<END>
シードの結婚式…に続きません!
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オマケ話(シェル&ドゥルーガ)