(シェル&ドゥルーガ。「ウェールの守り神」の後、ウェリスタ国王都にて)
「紫竜殿、私も依頼をしたいのだがいいだろうか」
「ふむ。あのバカの依頼すら今は受ける気がしないのだが…」
黄竜と喧嘩をした紫竜ドゥルーガは気を悪くしていた。
「それは申し訳ない。だがルーは私が物心ついたころにはああいう性格だった。そして今になってもああいう性格だ。一応努力はしているのだが、私のような短い寿命の人の子ごときでは、ルーの性格を変えることなど無理なのだろう」
シェルの返答はドゥルーガのツボにはまったらしい。ドゥルーガはひとしきり笑い、シェルを見上げた。
「さすがはウェールの次期当主、全くそのとおりだ。百年や二百年ごときでヤツの性格が変わるはずがないか。…ヤツは俺がパスペルトにいるころから変化がない。願わくは次に会うときまでには少しはマシな性格になっていてほしいものだ」
ため息混じりの口調で言うと、ドゥルーガは軽く背を奮わせた。
「では依頼内容を聞こうか。言っておくが俺は高いぞ」
「高名な貴方に依頼するのだ。安い品など頼む方が無礼というものだろう。王族が身につけてもおかしくないような、とびっきりの品を頼む。一つはパスペルト王家の王子殿下にお渡しする予定の品だ。優美というより鮮烈という印象が強い方だ。むろん、報酬は弾む」
前金でも後金でも、と告げるシェルにドゥルーガは気をよくしたように頷いた。
「では材料費だけ前払いで頼もうか。今は使い手が鍛冶師ではないのでな。材料が殆ど手元にない。その都度入手している状態だ」
「その材料探しは私が手伝えそうだ。ウェール家の力を使用させてもらおう」
「では商談成立だな」
久々の大きな仕事になりそうだと言うドゥルーガにシェルはあることを思い出した。
「そういえば…この国の海軍本拠地がある港町をご存じか?」
「さて…知っているかもしれないし、知らないかもしれない。何だ?」
「当家の支店が一つある。そこにウィーゼの姓を持つ十代半ばの鍛冶師見習いがいる。腕はまだまだだが、働き者の良い子だ。きっとよき鍛冶師になるだろう。思い出したので一応お伝えしておく」
「……ウィーゼの血筋か……」
ドゥルーガは懐かしげに呟いた。
シェルは頷いた。
「かつての伝説を産み出すような才能はないが、当家の契約鍛冶師として、代々頑張ってくれている。……ドゥルーガ殿、貴方が愛した血の者達は先祖を誇りとし、よき鍛冶師となるべく努力を惜しまぬ良い者ばかりだ。いつか彼等は彼等自身の手で新たな伝説となる武具を産み出してくれるだろう。私はそれを信じている」
++++++
シェルはドゥルーガと依頼に関する会話を交わした後、スティールの部屋を出て行った。
ドゥルーガは窓の外の風景を見ながら過去を思い出していた。
懐かしい名を聞いた。
ウィーゼはドゥルーガが三代続けて愛した家系の姓だ。
ナダやトウガなど、のちに伝説となる剣をその血筋の者達と作り上げた。誉れ高き名は七竜であるドゥルーガと彼等がいたからこそ広まったのだ。
パスペルト国にはよき想い出もあれば、悲しき想い出もある。
最後の使い手が向けてくれた感謝の眼差しをドゥルーガは今も覚えている。
彼がいなければドゥルーガは人を嫌ったままだっただろう。彼がいてくれたからこそ、また次の使い手を捜そうと思うことができたのだ。
その時、カチャリと小さな音がした。
「ただいまー。ドゥルーガ、お土産を買ってきたよ」
テーブルの上に置かれたのはホカホカと湯気をあげる焼き芋だった。今の使い手は鍛冶師ではないが、心優しい人柄でドゥルーガは気に入っている。
「一緒に食べようよ。ドゥルーガは食べなくてもいいのかもしれないけれどさ、食事は誰かと一緒の方が楽しいよ」
以前も同じことを聞いた。一緒に食べようと貧しい食事を分けてくれた。
また同じ事を別なる使い手から聞くとは思わなかった。そう思いつつ、ドゥルーガはテーブルの上に飛び移った。
スパッと焼き芋を真っ二つにするとスティールが目を丸くした。
「今どうやって切ったの?見えなかったよ!」
刃物で切ったような切り口にスティールが慌てている。
これぐらい朝飯前だぞ、とドゥルーガはしっぽを揺らした。スライムである彼は体を鋼鉄のような硬度にするのも、液体化させるのも可能なのだ。
片方の焼き芋を手にすると更にスティールが慌てた。
「ちょっと待ってよ、ドゥルーガ。それ、ドゥルーガの体の半分ぐらいはあるよ。食べきれないんじゃない?食べれるのっ?」
「もちろん食えるぞ」
「そうなの!?一体どうやって消化するんだよ。ドゥルーガの体に入った焼き芋が透けて見えるなんてことはないよね!?」
一体どういう想像をしているのだとドゥルーガは呆れた。幾らスライムだからといってもそんな光景、自分だって嫌だ。
「早くしろ。一緒に食べるんだろう?俺は待ってるんだぞ」
そう苦情を告げるとスティールは慌てた様子でマントを畳むと、テーブルへやってきた。
「「いただきます」」
ホカホカの焼き芋を二人で分け合いつつ食べた。
芋の温度以上に暖かくなったのは、胸の中だ。一緒に食べようと声をかけてくれた、使い手の暖かな気持ちのおかげだろう。
「ドゥルーガ、焼き芋が好きなんだね、今度また買ってくるよ」
別に焼き芋が好きというわけではないのだが、あえて否定する必要もないだろう。
芋を皮ごと囓りつつ、ピンと立てたしっぽで返事をするドゥルーガであった。
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