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◆ガルバドスの闇市場(7)


時は少し遡る。
二人の青将軍は黒将軍のパッソと対峙していた。

「ベルリックとカークか。ここへ来たということはレンディの差し金だな?あの小僧は俺を目障りに思っていたようだからなぁ?」

2mを超える巨漢を前にカークはうっすらと笑みを浮かべた。
ベルリックは無言でパッソを見据えている。

「レンディのヤツにいいように使われてお前ら悔しくないのか?テメエらならもっと上を狙える。特にカーク。お前はとっくに黒になっていてもおかしくねえ。何故、青に留められているのか考えたことねえのか?レンディとノースが企んでいることを知りたくねえのか?」

カークは小さくため息を吐いた。

「美しくありませんね…」
「何?」
「あの二人の考えなど私にはどうでもいい。なるべき時が来たら私は黒を羽織ることになるでしょう。その日まで私は私のやりたいことをやるだけです」

長い鞭がピシリとしなる。緩やかに動く空気がどんどん冷え込んでいく。カークの水の印が動き始めているのだ。

「今、私が欲しているのは黒の地位ではなく、貴方の命ですよ、パッソ」

キラキラと輝く氷の粒が宙を舞い始める。
その様子を見つつ、ベルリックは大剣を持ち直した。

(こいつら、強い……)

ベルリックは二人の強さを身に染みて感じていた。
黒将軍であるパッソは言うまでもないが、カークも強い。その強さがビリビリと肌に突き刺さるように感じる。
ベルリック自身、青将軍としては上位の方にいるつもりだが、こうして共に並んでいると、カークの強さはその中でも抜き出ていると感じた。何故、黒に上がらないのか不思議なほどだ。
ふと、脳裏に一刻ほど前の会話が蘇った。

『ただ戦うだけでは美しくありません。賭けをしませんか?』
『俺はただ戦うだけでも十分なんだがな。何を賭ける気だ?』
『パッソを倒した方が勝者です。いかがです?まさか逃げるとは言いませんよね?』
『………』
『貴方が勝ったら秘蔵の酒をお出ししますよ。いかがです?』

会う前なら笑って聞き流したような話だった。
しかし、直に会って話したことで、その眼差しに、笑みに捕らわれてしまった。
気づいた時には承諾していた。

(愚かだ。危険だと判っていたのに…)

勝っても負けても、酒のやりとりで済むはずがない。そんな生易しい相手でないのは判りきっている。
会っては駄目だ。捕らわれてしまう。近づいては危険だ。判っていたのに、恐れていた行動を取ってしまう。

(本当に愚かだ。ヤツに捕らわれてしまってはろくでもない未来しか待ち受けていないとわかっているのに…)

優美に動く片割れを見つつ、ベルリックは飛んでくる攻撃を避けつつ、剣を振り下ろした。