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◆ガルバドスの闇市場(5)


ベルリックは黒将軍ゼスタの配下にある青将軍である。
実直で男らしくハッキリした性格のため、部下にもよく慕われている。
そんな彼は敬愛する上官ゼスタから連絡を受け、やる気一杯で上官の下に駆けつけた。

「非常に言いにくいんだが…」

上官ゼスタはやや無口だがハッキリした性格の人物である。その人が言いにくいということは珍しい。
怪訝に思いつつ促したベルリックはその理由を悟り、顔を引きつらせた。

「カークとの仕事ですか…」

変わり者揃いのガルバドス軍の中でも際だって変人で有名な人物。
美に拘り、男ばかりのハーレムを作りたがり、側近は顔を選んでいると評判である。
救いなのは彼の上官が知将ノースであることだろう。まともで話が分かる知将ノースだからこそ、カークを抑えられているのだろうとは周囲の一致した意見である。

「実はこの仕事、レンディから来た仕事でな…」

そういえば知将は別件で王都を留守にしていた。だからというわけではないが、ノースがいたらこんな仕事は回ってこなかったかもしれないと思うと知将の不在が恨めしくなるベルリックである。部下の管理は完璧なノースは直属の部下を他者に貸すということを滅多にしないのだ。

「どうしても嫌ならレンディに断るが…」
「いえ、大丈夫です」

幸か不幸か、ベルリックはカークに免疫があった。一方的な免疫ではあったが。

(強いヤツは嫌いじゃない。だからこそ厄介なんだ……)

きわめて強く、危険な香りがするタイプは近づいては危険だ。判っていたから近づかなかった。
ああいうタイプは、知れば知るほど深みにはまりそうで嫌なのだ。
そう思いつつ、ベルリックは小さくため息を吐いた。


++++++


本家から送られたジダンとロブは収容所への突入前日にシェルたちと合流していた。
足の速い本家の船で来た上、支店の見回りなどもせずに馬を走らせてきたため、視察をしながら馬車で移動しているシェル達よりずっと早く到着できたのである。
ジダンとロブの到着はシェルを喜ばせた。
二人はパスペルトで言えば隊長クラスの実力を持つ腕のいい護衛だ。さすがに将軍位クラスの実力を持つのかまでは判らないが、隊長クラスの実力は確実にある。収容所襲撃に大きな力となってくれるだろう。
しかし二人はシェルの話を聞いて唖然となった。

「シェル様。俺ら、アンタの護衛を頼まれたんですがね〜?」
「あぁ。だが俺の指示を聞けと言われてるだろう?」

シェルが言い返すとロブはチッと舌打ちした。
ロブはツンツンとした黒髪の男だ。シェルより3歳ほど年上で敏捷な体を持つ短剣使いである。シェルとは主と部下の関係だが、年齢が近い分、互いの幼い頃も知っている。
修行のために一度は離れたものの、幼なじみと言ってもいい関係だったので、遠慮がない。
一方のジダンは無言である。白に近いプラチナブロンドの髪を惜しげもなく刈り込んでいるジダンは薄い水色の瞳を持つ無口な青年だ。ロブと同じく敏捷な体を持ち、主に体術に優れている。

「で、バディ様はどうなさってらっしゃるんで?もちろん野放しになんてしてらっしゃいませんよね?」
「当然だ。バディには『俺の護衛をしてくれ』と頼んである」
「賢明なご判断ですな」
「まずはシシ老。極端な話、彼さえ助けてくれればいい。サウザプトン国の将軍とやらも捕らわれている可能性があるようだが余裕があったら助ける程度でいい。後の判断はまかせるが、青竜の使い手には近づきすぎるな」
「ん、何故です?味方なんでしょ?」
「……俺はあてにできない、と思った。理由はただそれだけだ」

ジダンとロブは顔を見合わせた。
シェルは人を見る目に優れている。伊達に大商人一族の後継者ではないのだ。シェルがそう言うのであればそうなのだろう。
二人はシェルに頷き返した。