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◆ガルバドスの闇市場(3)


シェルの元へ人身売買組織の情報が入ってきたのは、ウェリスタ国の西に位置する軍事大国ガルバドスに入った時のことだった。
手頃な食堂を選んで入り、食事を終えて一息吐いたところへ、隣のテーブルに移動していた兄が戻ってきたのだ。

「何だって…?」
「だから、この人たちサウザプトン国の将軍さまをお探ししているんだってよ。可哀想だろ、協力してやれよ」

シェルは流通網を記した地図と書類から顔を上げた。
シェルの隣に座っているのはウェール一族でこの地域一帯の責任者ウリナだ。
三十代後半のウリナは女性でありながら非常に卓越した手腕を持ち、シェルも短い間にウリナの頭の切れに気づいて感心していた。

「…判った。情報が入ったら教えよう」

人助けに関することだ。むやみに出来ないとは言えない。適当にそう答えたシェルは内心ため息を吐いていた。

(そう簡単に将軍職の者が見つかるわけないだろうが。しかもこの現状なら間違いなくその相手はガルバドス国の捕虜になってるぞ!)

その相手と兄には悪いが助けられないだろう。
食堂を出て、馬車に戻り、シェルは小さくため息を吐いた。

(やはりガルバドスがネックだな。いいツテがないだけに弱い。新興国だから大きなチャンスも眠っているに違いないのだが…)

できるものなら自らこの国に留まって、力を貸したいのだが…などと思っていると、ウリナがため息を吐いた。

「シシ老をお助けできたら違ってくると思うのですが」
「シシ老?」
「闇市の長をなさっておられた方です。闇市とはいえ、慈善事業の面が大きく、戦乱続きのガルバドスの民にとっては大きな意味合いがありました。多くの人々がシシ老に助けられ、彼に感謝している者はとても多いのです。彼をお助けすることができたらウェールにとっても助けとなると思うのですが」

ただ、情報がなくて、とウリナ。

「ふむ…そういうことなら少し調べてみようか」

世の中、金だ、というつもりはないが、金で解決できる事柄は多い。
そういう意味ではシェルは多くの情報を手に入れる自信があった。


「ぼっちゃま、ただいま戻りました」

シェルたちがとっている宿に深夜戻ってきたのはティムという名の従業員であった。
一見したところ、小柄な盗賊風の男だが、れっきとした商売人である。
シェルの護衛兼補佐として本家からついてきている人物であり、年齢は二十代後半。代々ウェール家に仕える家に生まれ、幼い頃から商売のイロハを叩き込まれている彼は非常に優秀な商売人であった。
黒髪に赤いバンダナを巻いた彼はそのバンダナを外しながら仕入れた情報を報告した。

「ガルバドス国は周辺の小国を吸収しながらのし上がった国だけあって、軍が大きな権力を持っています。その中でも最高位は8将軍と呼ばれ、それぞれが絶大な権力を誇ります。その中にパッソという名の将軍がいまして、大変、評判悪い人物なんですが、自前の捕虜収容所を持ち、人質を好き勝手にして殺しているとか……」

捕らえられているのであればその収容所が一番人数的にも多いため、可能性的に高いのだという。

「…確かこの国には青い竜がいたな」
「はい。同じ8将軍の一人レンディさまですね。青竜ディンガの使い手と言われておられます」
「面会申し込みをしてくれ。ルーの名を出してくれてかまわない」
「承知致しました」