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◆描けぬ声が囁く夜(2)


上質の紙で作られたカードをシェルはしかめ面で見ていた。
第一王子ローシャスは見目よし、生まれよし、能力よしと何もかも揃った人物で、人気の高い王子だ。そのため、彼が主催する誕生会も非常に人気が高く、招待状を貰えるか貰えないかは一種のステイタスになると言われている。

(そんなことどうでもいいんだが…)

シェルとしては出たくないので、むしろ貰いたくなかった。
ちなみにウェール一族にはシェルとバディにだけ届いている。当主である父のジンに届いていないのは若手中心の誕生会だからだろう。つまりローシャスと同じ世代の者達に招待状が送られているというわけだ。
若い貴族や王族達の出会いの場にもなるこの手の宴は国内の様々な場で、いろんな理由付けをされて催されている。爵位としては伯爵家となるウェール家にもいろんなところから招待状が届く。国内では上でもなく下でもない、中間どころのウェール家はその分、多くの招待状を貰うのだ。

『めんどくさい。俺は出ねえからな』

バディはそう言って、招待状の中を確認もせずに放り捨てていた。むろん、しっかり拾っておいたシェルである。

(いや、むしろ王子は二人だけで会いたいぐらいだと思うんだが…)

そう思うシェルだったが、人のことは言えないため、黙っていた。
シェルに贈られた招待状は間違いなくウィリアムが絡んでいる。仲の良い兄弟であるローシャスとウィリアムは互いの意中の相手に会うために協力し合っている節が見られるのだ。

(しかし行かないわけにも…)

素直すぎるほど素直なバディと違い、シェルは物事がいろいろと見えてしまう質である。
そして、いいかげん、兄を王宮へ連れていかないといけないことも判っていた。兄はあまりにも王家を無視しすぎている。面倒事に発展しない程度には兄を王宮に連れていっておかねばならない。なんだかんだ言いながらもウェール一族がパスペルト国に本拠地を持つ以上、王家は無視できぬ存在なのだ。

(さて、どうするか…)

今回の宴は誕生会という名目だ。
…ということは、祝い品を贈らねばならない。
もちろんウェール一族の名を落とさないような逸品を用意せねばならないのだ。

(問題はバディか)

さてどうしたものかとシェルは案を練り始めた。