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◆ウェールの守り神(13)


「全く酷い目にあった!!」

小竜のルーはプルルンと海水に濡れた身体を震わせた。大海蛇の頭部にはルーと一緒に助けられた希少生物たちが檻ごと乗っている。

「こっちも酷い目にあった。折角寝ていたのに」

大海蛇はぼやいた。
大海蛇は名をラグーンといい、別名『藍竜』と呼ばれる存在である。七竜の一つと言われているが、彼は基本的に人嫌いであり、殆ど使い手を選ぶことなく海の底で眠っている。

「そなたなど寝ていただけではないかっ!!私など殺されかけたのだぞ!!」

怒るルーに、ラグーンはなんて迷惑なと思った。殺されかけたのも捕らわれたのもルーの落ち度が問題であり、ラグーンは無関係だ。むしろ助けたのだから感謝してほしいぐらいである。
ちなみにラグーンはほぼ毎回ルーに叩き起こされている。
いつも海の底で眠っているのにルーが何かしでかしては精神声で遠慮無く叫んでくれて、叩き起こされているのだ。
そのたびに力を貸すことになり、ラグーンは盛大に迷惑していた。

「…で、どこへ連れていけばいいんだ」

こんなはた迷惑な同種などさっさと陸に下ろして寝直したいと思い、ラグーンは問うた。

「ミスティア艦隊の船にでも乗せてくれればいい」
「ミスティア艦隊?」
「青い帆をつけていた方の船だ」
「わかった」

逃げるミスティア艦隊の心境など知るはずもなく、ラグーンはゆっくりと身体を動かし始めた。



一方、ミスティア艦隊。
突如現れた大海蛇に驚愕し、慌てて逃げ出した艦隊はその蛇が追ってくることに気づいて大慌てだった。

「何で追ってくるんだよ!!悪さはしてないぞ、むしろ海賊退治してたんだから褒められるべきだろ!?」

青ざめて問うのはミスティア艦隊の右翼を率いるエッジ。しかし答えることができる者がいるはずもない。皆、逃げるのに必死だ。

「まさかあの海賊どもの仕業か?それこそまさかだよな。やつらも逃げてたし」
「そりゃ違うだろ!海蛇使えるぐらいならとっくにもっといい手使ってるだろ。俺らに負ける前にっ!!」

応じるのは左翼を率いるウォルターだ。
二人の船は隣接していた。海蛇から逃げるのに必死で艦隊の列を整える余裕などなかったのだ。

「だよなぁ…」
「っつーか、逃げられねえし!!!!ああ、コウさま、黄色のトカゲを発見できず、申し訳ありません!!父上、母上、無念ながら私は…」
「辞世の言葉を残している場合か!!」

祈り始めたウォルターにエッジがつっこむ。
その二人の船にヌッと大蛇の頭部が突き出される。二人は青ざめた。食われるのか!?
エッジの艦橋前の上甲板にボタボタと落とされたのは複数の檻であった。すべての檻に動物が入っている。

「馬鹿者っ、もっと丁寧に下ろさぬか!!」

盛大に抗議する声が響く。
その声が小さな鳥かごから発されていることにウォルターもエッジも気づかなかった。巨大すぎる頭部に気を取られ、冷静でいられるはずもない。
そのため、二人は小竜にさっさと籠から出せと抗議されるまで呆然としたまま、海中に戻っていく大海蛇を見送っていたのであった。