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◆ウェールの守り神(10)


一方、海軍。
海軍の二強を歌われる片割れ、マックスは怒りで顔を真っ赤にさせていた。
親友アルドが牢に入れられた。しかも罪状は暴行容疑であるという。

(何が暴行容疑だ!!そのまえに暴行理由を考えろ!!)

正義感の強いアルドは部下が行った略奪と暴力沙汰をとがめ、部下を止めようとしたらしい。
しかし貴族出身で我が儘なおぼっちゃまである部下は逆に切れて上官に襲いかかったという。
結果、平民出身のアルドは牢に入り、愚かな部下は無罪となった。
そんなことがあってたまるかとマックスは抗議したが、現海軍将軍ボルスは金で将軍になったと噂されるような男だ。賄賂に弱く、権力者との繋がりも厚い。
本来、ミスティア家より遙かに戦力的に上であるはずの海軍がミスティア艦隊と同レベルと言われるのは海軍上層部の腐敗のせいだ。
とくに近年は酷く、金で動いているのがあからさまな仕事内容である場合も少なくない。
功績が遙かに抜きんでているアルドとマックスが大隊長まで登るのに苦労したのはそのためだ。

『海軍というのはおかしなところだな。かのテトラとかいう大隊長殿は一体どういう功績をたてて大隊長になられたのだ?お主らの功績ならよく知っているが、かの大隊長殿の功績は全く耳に入らぬのだが』

年若い次期ミスティア領主コウの台詞は海軍への痛烈な皮肉だった。
海の支配権のことで代々不仲のミスティア家の方がマックスらの功績を正しく評価していると知り、さすがのマックスとアルドも苦笑を禁じ得なかった。

海軍は腐敗している。それは事実だ。
アルドは無罪のはずなのに牢に捕らわれてしまっている。それが現状だ。

(このままではアルドが死んでしまう)

正しいことがまかり通らぬのが海軍の現状なのだ。当然正しい方法ではアルドを助けることはできない。

『海軍というところはおかしなところだな』

そう呟いていた次期ミスティア領主を思い出す。
海軍とミスティア家は不仲だ。しかし今は強力な味方が必要だった。腐れ切った海軍トップより強い権力を持つ絶対なる力が。海軍の隊長でしかないマックスは彼しか思い浮かぶ相手がいなかった。

(ミスティア家に大きな借りを作ることになる。だがアルドを救わねば!!)

時間がない。処刑されてしまってからでは遅いのだ。
幸い、マックスは港町ギランガの次期領主ベルクートを知っている。以前、あることで近衛軍の将官から紹介を受けたことがあった。
ベルクートはミスティア家の親族に当たり、当然ながら次期ミスティア領主と直接連絡をとることもできる。
マックスはアルドが牢に入れられた日の夜、ベルクートの元を訪れた。