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◆竜鱗の害獣退治(4)


デクスター伯爵家はディンガル地方を治める貴族である。
領地内にあるディンガル騎士団は国王直属であるため、運営には関わっていない。同じ土地に共存している間柄だ。
ディンガル地方は山と山に挟まれた地で、農耕にはあまり適さない地だ。
しかし、西と北を結ぶ主要交易路が通り、交易が盛んで、ガラディア山と呼ばれる岩塩がとれる山があるため、貧乏な土地ではない。

伯爵家に戻ったルオンとルシアは使用人らの出迎えを受けた。
泥まみれであることに仰天された二人であったが、事情を説明し、納得してもらった。
そうして翌日、ルオンは妹を部屋へ呼び出した。書類を手にしている。

「どうなさいましたの?お兄様」
「うむ。昨日会った腕の良い傭兵達のことだ。何となく名前に聞き覚えがあると思っていたら、北の双将軍のお二方がお探しの傭兵たちだったようだ」
「まぁ、そうでしたの!どおりで腕の良い傭兵たちだったはずですわ!」

北のサンダルス公爵家の双将軍であるアーウィンとローウィンは、以前、セイーラの森で出会った命の恩人を捜すために、近隣領主へ捜索を頼んでいた。ディンガル地方は北からやや離れているが、傭兵が多い地方であるため、依頼が来ていたのだ。

「傭兵ではないかもしれないぞ」
「まぁ、そうですの?」
「傭兵にしては欲がなさすぎる。兄と呼んでくれればそれでいいなどと言っていたぐらいだ。そしてあの身の振る舞い。恐らくは騎士だろう」
「どうして傭兵と名乗ったのかしら」
「表沙汰に出来ぬ任務についており、素性を隠す必要があったとかそのあたりの理由ではないかと思う。いずれにせよ、彼らは心強い味方だ。双将軍だけでなく我々の領民も助けてくれたからな」
「そうですわね、お兄様」

ルシアは顔を赤らめた。

「ふふ、オルスお兄様は素敵な方でしたわね、ルオンお兄様。一体どちらの方なのかしら…」
「そうだな。彼が貴族でも私は驚かないぞ」
「同感ですわ」
「そういえば、彼らは、私がローウィン様に似ていると申しておりましたわ。お二方と面識があった証拠ですわ」
「おお、そうだったのか。ますます当たりだな!」
「ですわね、お兄様!こうしちゃいられませんわ。捜索依頼が来ていることを彼らに伝えねばなりませんわっ!」
「あぁ、そうしよう。彼らは公爵家の命の恩人だ。丁重に扱わねばならぬ」

捜索依頼が来た後に再会したとは知らず、動く二人であった。