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◆霧の記憶(7)


「今夜行くが、どうする?」
「行く」

予想どおりの返答にロイは軽く肩をすくめ、また後でと告げると騎士団の寮へ戻った。
無事、騎士となったロイは結局士官学校時代と変わらぬ交友関係を続けていた。
夜の町へ行くのも同じだ。毎回というわけではないが、ロイは定期的にオルスを誘っている。オルスが娼婦を抱くのも嬉しくないが、だからと言って、特定の相手を作られるのも嫌で、結局は定期的に誘うようにした。夜の町の女を相手にされる方が、特定の相手を作られるよりずっと気分的にマシだった為だ。

ロイは一度だけ想いを告げたことがある。
結果は予想どおり、「すまない」という謝罪の言葉だった。
予想どおりなので落胆は少なかった。

(でも俺はお前の多くの友人よりは、少し近いだろ?)

人気者のオルスには多くの友がいる。オルスも分け隔て無く、付き合っている。
けれど、ロイはその多くの中の一人よりは近い位置にいるという自負がある。
もしかするとエルザークと同じぐらいの距離かもしれないが、それでもきっと、オルスを慕う多くの友より近い場所にいることができているだろうと思う。
そう思うことで少し心を保つことができる。
今は騎士団の地位的な意味では、エルザークに一歩遅れているが、そのうちちゃんとオルスを支えられる位置に行くつもりだ。士官学校時代からそのつもりでやってきたのだ。彼の隣に立つために、好きでもない勉学を頑張ってきたのだから。

(俺はお前の背を守る)

それが今の目標なのだ。


++++++++++


ガルバドスとの戦いが近い。
ディンガル騎士団内部もぴりぴりした緊張が漂っている。
中隊長に出世したロイは、自室で補給に関する書類を書いていた。
そこへ、慌ただしくノック音が響き、濡れた友人が飛び込んできた。

「あー、濡れた、服を貸せ!!」

エルザークだ。彼はロイと体格が近いため、服のサイズが同じなのだ。

「おいおい、何をやってたんだ」
「お前の上官殿に外の見回りについて再指導してたんだ、そしたら雨に降られた!」

ロイの現在の上官はアーノルドだ。敵将の首を取って出世したアーノルドは、隊の運営の方は相変わらずであり、副官やエルザークが面倒を見ている。
次の引き継ぎまで時間がない、とエルザークは大慌てで着替え、部屋を飛び出していった。
そこへ入れ違いにやってきたのは部下であった。オルスが執務室へ来いと言っているという。他隊のユージンも一緒だそうだ。
副将軍に出世したオルスに呼び出されたロイは少し心を躍らせた。
ユージンも一緒だったことが少し気にかかったが、直々に呼び出されるということは重要な命令である可能性が高い。信頼の証だ。
いつも彼の側にいるのはアーノルドとエルザークだ。
しかし、今回は自分たちだ。

(少しお前に近づけたか?)

内心そう喜んだロイに告げられたのは、思いがけない命令であった。