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◆ゼラーネの双将軍(14)


戦いは、近衛軍を中心とした部隊で構成された。
近衛軍は強い。エリート部隊なので国内最強を誇る。
そして指揮は近衛将軍の一人であるリーガだ。アーノルド達は安心して戦いに集中することができると喜んだ。
四人は当然ながら、最前列の場所を選び、開戦と同時に突っ込んだ。
それも中央部隊の最前列だ。思い切り目立つ場所と言っていい。

「二人以上で戦えるのは嬉しいッスねえ!武器のせいでおもいきり暴れられないのが残念です」
「エルザーク、お前も攻撃に回れ。サポートは俺とロイでやる」
「判った!」
「双剣技が使えないのは残念ですねー……華炎連弾!!(ラ・ゼディーガ)!!」

最初に動いたのはアーノルドだ。
先攻とばかりに放たれた炎の球が複数飛び、最前線の敵を吹き飛ばす。

「攪乱するぞ!地神の手!!」

続いて動いたオルスが巨大な土の手を数体生み出した。数メートルぐらいはありそうな巨大な手が、敵兵を掴んで地中へ引きずりこもうとする。
慌てる敵の隙を見逃す二人ではない。一瞬、目を合わせたアーノルドとエルザークが得意技を発動させる。

「炎蜘蛛陣(リ・ジンガ)!!」

大きく砕けた地中から炎が勢いよく吹き出し、敵を吹き飛ばす。
見事な鮮やかさで放たれた技は、敵のど真ん中を大きく切り崩すことに成功した。
そしてその隙を見逃す近衛ではない。チャンスを生かし、しっかりと敵の分断に成功した。

「先輩、首っ!!」
「判った、行け、アーノルド!!」
「はいっ!!」

目立つ甲冑を身につけている。恐らくは敵将の一人ギデオンだ。
しかし、一騎打ちに持ち込むには少々、周囲の兵が邪魔だ。厚みがある。
以前のアーノルドの武器ならば吹き飛ばすことができただろう。しかし、今の武器では少々不安がある。他の方法で切り崩さねばならない。
その不安を読み取ったかのように、オルスが目を向けてきた。

「ロイ、少し持ちこたえてろ。エルザーク、やるぞ!!」
「御意!!」

地に力が満ちていく。
周囲の兵も大技の気配に気づいたのか、慌てて解除しようと動いているようだ。
しかし、技を解除するには相手以上の力を必要とする。オルスとエルザークは強い印を持っている。
アーノルドは敵兵を斬りつつ、タイミングを見計らっているようだ。
ロイも必死に襲ってくる敵兵を切り返した。

「大地の神ペイランよ、御身に深き感謝を!!『聖ペイランの足跡(ジオ・レイテルン)』!!」

急撃に強い圧力を感じたかと思うと同時に、強烈な重圧が降り注ぐ。
大地を揺らす大きな一撃が響き渡り、敵陣にクレーターを作り出した。
土同士の合成印技、『聖ペイランの足跡(ジオ・レイテルン)』だ。
強烈な重力を与え、敵をたたきつぶす大技で、クレーターが残る技でもある。

「よし!!『聖マイティスの刃(グラザナード)』!!」

大技の直後に間髪入れず、アーノルドの技が放たれる。
巨大な炎の刃は、技が消えた直後の敵陣を飛び、敵将に直撃した。

「よし!!ギデオン将軍、討ち取ったりっ!!」
「よくやった、アーノルド!」
「はいっ!」
「ブリュノ将軍もいるはずだ、探せ。できればこの一戦で戦いを終わらせるぞ!」
「はいっ!!」

剣を交わし合っていた敵にトドメを差したロイは、視線の先に三人が探している人物を偶然見つけ、ゾッとした。今の瞬間を見ていたのだろう。恐ろしいほどの敵意と殺意に冷や汗が出る。
戦場で動きを止めることは死に繋がる。動かねば。そう思うのに体が固まり、冷や汗ばかりがでる。
何とか声を出そうとしたそのとき、リンとした声が聞こえた。

「1、2、3……行け!!」

隣から矢が放たれる。エルザークだ。
すぐにロイの様子に気づいたのだろう。敵将に驚いている様子はない。

「行きます!!」

エルザークの矢を退けた敵将ブリュノに斬りかかっていったのは、アーノルドだ。印だけでなく、剣術にも自信があるのか、怯んでいる様子はなく、きっちり互角にやり合っている。

「お主、名は!?」
「ディンガルき……いや、ええと…」

アーノルドは言葉に詰まった。
今までどおり、『ディンガル騎士団副将軍…』と名乗るわけにはいかない。しかし、他の名乗り方など考えたこともない。
傭兵の…と答えればいいのだろうか。しかし、傭兵であることを名乗っても意味はない。本来は所属などを名乗るものなのだ。

「ディンガルだと!?」
「ディ、ディンガルの、炎虎ってことで!すみません、そのうち新しい名乗り方、覚えておきます!!」
「おい、アーノルド!」
「大丈夫です!!やれます!!」

ブリュノと切り結んでいたアーノルドは、突然、左手に炎を生み出した。
ぎょっとするブリュノにアーノルドはニヤリと笑んだ。

「俺、本当は双剣使いなんですよね。戦う時は両利きなんです」

アーノルドは左手の炎を刃へと変化させ、そのままブリュノの胸を甲冑ごと貫いた。