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◆ゼラーネの双将軍(13)


リーガが領主軍も指揮するという報は、オルス達を喜ばせた。
双将軍の指揮に不安があったというわけではない。彼らが負傷していなければ問題はなかっただろう。
しかし、双子は負傷している。だからこそ、リーガが指揮を執るという報は嬉しかった。

「これで軍の指揮は安心できそうですねー」
「まったくだ」

アーノルドとエルザークは軍の指揮だけではなく、単独で敵将と戦うことも多かった。敵将との戦いに専念できるのは、二人にとっていつものパターンに近い。
一方のオルスは全体指揮が多かったので、敵将との戦いに専念するのは珍しい。

「ロイ、少しは腕を上げたか?」
「これだけ連戦じゃ、腕が上がったかどうかなんて考えてる余裕はねえよ」
「確かに連戦だが、珍しくないと思うぞ。だが、あまり無理せずに頑張れよ」
「あ、ああ」
「実戦は一番、腕が上がるッス。人を斬る感覚は実戦じゃないと経験できませんから」
「人を斬る感覚………あんたは躊躇わないのか?」
「躊躇ったら死ぬじゃないですか」

俺は死にたくありません、ときっぱり言うアーノルドに、ロイは強いなと思った。
彼が悩んだことがあるのかないのか、わからない。しかし、今の彼の強さはきっと精神面にも言えるだろう。迷いのなさは彼の強さだ。

「ロイ、迷わないでくださいよ。アンタが迷ったら一緒にいるオルス先輩まで危険になります。背中を預かる重みを忘れたらいけません」

胸に突き刺さるかのように、痛い言葉であった。
自分だけの問題ではないのだ。
そんな大切なことを忘れていた己に嫌悪感を抱きつつ、ロイは頷いた。

「あぁ、判った」

そのとき、後方でざわめきが起きた。

「ったく…またか!」

気づいたエルザークが舌打ちする。
剣を片手にローウィンがやってくる姿が見えた。

「あの人、どうにかならないのか?」

エルザークのぼやきにオルスは苦笑した。

「そう言うな。誰かが領主軍をまとめねばならなかった。リーガが来るまでは彼かアーウィン様しかいなかったんだ。
実際、この領地でカリスマ的存在の双将軍のおかげで不利な中でも高い士気を保ち続けることができた。彼がいたからこそ、軍がまとまっていたんだ」

彼の体の不調も無理をし続けた故だ。だが彼のおかげでゼラーネは落ちずにすんでいる。
無理をしながらだったが、彼は確かな指揮を執ったのだ。

「リーガが指揮を執ると聞いていないのかもしれないな」
「……眠らせてくる」
「判った」


++++++++++


相当に顔色が悪い。青いというより白い。元々、色白なのかもしれないが、異常な顔色だ。
これでも動こうというのだから、見事な精神力だ。
側近達に必死に引き留められている中、エルザークはため息混じりに告げた。

「あんたな……側近の方々もおっしゃってるだろうが、寝てろ」
「近衛に来ていただいたのはありがたい。だがこの街は、我が公爵家の街だ。私も戦うのは当然だ!」

エルザークは目を細め、口元だけで笑んだ。
目は笑っていない。すごみのある笑みだ。

「……敵将の首を取ってきてやるから、いい子で待ってろ」
「何?」
「血の花を添えて、敵将の首を取ってきてやると言ってるんだ。アンタが来たら、アンタの側から離れられないだろうが。安心して戦えないんだよ。大人しく待ってろ」

ローウィンは息を飲んだ。
魅入られたようにエルザークの笑みから目が離せない。

「…本気で言ってるのか?」
「リーガ様にも敵将の足止めを正式に依頼されたんでな。もし持ってこれなかったら次の戦いは出てもいい。アンタの出番をなくしてやるからちゃんとここにいろよ」

これだけ言っても眠らないのなら、気絶させるぞと言われ、エルザークの本気を感じ取ったローウィンは躊躇いがちに頷いた。

「…死ぬなよ…エルザーク」
「当然だ。約束は果たす」

公爵家の家臣達が安堵した様子でローウィンを連れ去っていくのを見送り、エルザークはオルス達の元へ戻った。

(さて、約束したからには何が何でも首を取らないとな)

幸い、戦況は好転している。
いつもアーノルドと共に戦い、数々の敵将の首を取ってきた。
今回も十分、チャンスはあるだろう。