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◆ゼラーネの双将軍(11)


翌日、状況は好転した。
王都から、近衛第三軍の先発隊が到着したのである。
予想外に早い到着に歓声が上がった。
近衛が来れば、状況は一気に変わる。
近衛軍は強い。一つの軍が一万兵、大隊長クラスには上級印持ちの猛者も多いのだ。
そして第三軍は攻撃に長けた軍として有名である。守勢に甘んじていたゼラーネの人々にとってはありがたい軍だ。

皆が喜び合う中、オルスの表情が優れない。
エルザークが問うと、オルスは戸惑ったように首をかしげた。

「……リーガのいる方角が判らない……印が反応しないな……」

その疑問には黒盾姿のグィンザルドが答えた。

「それは当然じゃろう。リーガとやらとお主の相手は違う。この世界のリーガとやらは、この世界に生まれた者と結びつけられているはずだ。お主らはこの世界の生まれではないからのぅ」
「ええ!?それじゃリーガ様はオルス先輩の相手じゃなくなってるんですか!?」
「この世界ではな。そもそも相印は生まれた時に結びつけられると言われておる。お主らの生まれ故郷は元の世界じゃ。この世界に生まれたリーガと元世界に生まれたオルスが相印でないのは当たり前じゃ」
「じゃ、じゃあ、リーガ様のお相手は誰になってるんですか!?」
「知らん」
「ええー…そんなっ……」

オルスは絶句している。
そこで騎士の一人に名を呼ばれた。

「リーガ将軍がお呼びだ!そなたらが近衛を呼んでくれたそうだな!ありがとう!!」
「ありがとう、傭兵たち!!」
「本当にありがとう!!」

口々に感謝の言葉を告げられ、エルザークはただ頷き返した。戦いの後に声援を浴びるのには慣れている。こういったときは、ただ頷き返すことにしているエルザークである。

「へへ、こちらこそありがとーございますっ!」

素直に応じているのはアーノルドだ。彼もまた、大きな功績をあげて、声援を浴びることが多かったので、こういった状況には慣れている。
何故か騎士たちに頭を撫でられまくっているアーノルドを放置し、エルザークは振り返った。

「おい、オルス、大丈夫か?」
「あぁ……」
「そうは見えないな。今は傭兵だ、話は俺たちが聞いてくる。俺たちだけでも大丈夫だからお前は休んでおけ」
「いや、行く。俺が話を聞かねば。責任は…」
「あのな、責任とか立場とか、今はないだろ。リーガ様の用件なら予想が付く。任せておけ。……ロイ、連れていけ!」
「判った」

踵を返したエルザークは、オルスに左肩を掴まれた。

「待て、エルザーク。…会いたいんだ」
「!」
「リーガに会いたいんだ」

普段は淡々としているオルスに、珍しくも感情の籠もった声で告げられ、エルザークは言葉に詰まった。
どうする?と視線で問うてくるロイに、エルザークは小さくため息を吐いた。

「判った、それじゃ皆で行こう。だがあまり無理するなよ、オルス」
「あぁ」

ちょ、髪の毛、ぐしゃぐしゃなんですけど!
ぐしゃぐしゃでも可愛いぞ、坊や。
俺は坊やじゃないッスー!
ハハハハハ!

騎士たちの間から、そんな声が聞こえてくる。
やれやれ、あいつはどこに行っても同じだなと思いつつ、エルザークはアーノルドを呼んだ。