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◆ゼラーネの双将軍(2)


少し時は遡る。
ロイはラーチ砦の兵や避難民たちとゼラーネの都へ向かっていた。

「追っ手が来ないな」
「深追いはないだろう。しかし、攻め込んでくるのは間違いない。時間の問題だ。
あの砦だけを取っても、一つの拠点には出来るが大きな意味はないからな。あの砦を足がかりとしてゼラーネへ攻め込んでくるだろう」

避難民が一緒のため、どうしても移動スピードは遅くなる。そうなると追いつかれる危険性が出てくる。

(アーノルドたち、遅いな…)

砦を脱出した翌日には合流できるだろうと思っていたが、予想に反し、砦を出て三日経った今でも二人は追いついてこない。
口には出さないものの、オルスも心配しているだろうとロイは思う。

(早く来い、エルザーク、アーノルド!!)


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一方、アーノルドたちは、見事に敵兵と戦闘中であった。
砦を出た翌日、アーノルド達は寝過ごした。理由は黒竜にある。二人が疲れているようなので、ゆっくり眠らせた方がいいだろうと気遣い、たっぷりと睡眠を取らせたのである。
それも目くらましの技と眠りを深める技を使っての気遣いであった。
長年、人間と交流してこなかった黒竜なりの気遣いは、使い手である人間の考えとは大きく外れたものであった。
結果、翌日には合流するつもりだった二人は見事に置いていかれてしまったのである。
そして、砦を占拠した敵兵が、ゼラーネを落とすために組み直した敵部隊の一部に追いつかれる羽目に陥ったのであった。

「戦場で寝過ごしたなんて、今まで一度もないってのに、大恥だ!!オルスには絶対言えねえっ!!」
「いや、今回の場合、俺ら悪くないでしょ!?それより先輩、どーするんですか、敵兵は」

二人は追っ手から逃げるため、馬を全速力で走らせていた。しかし、すでに二人の耳に届くほど追っ手は近づいてきている。このままでは追いつかれるのも時間の問題だ。

「どうするもこうするも倒すしかねえだろ!オルス達は民間人と一緒のはずだ。巻き込むわけにはいかねえ。ここで食い止める」
「俺ら二人でですか。ちょーっと厳しいですが了解です」
「三人で、だ。グィンザルド殿!アンタも責任取って一緒に戦ってくれ!!」
「むー……儂はそなたらの体を気遣ってだな…」
「気持ちはありがたいが、二度としないでくれ、心臓に悪いっ!!」
「心臓は疲労が取れて、よき状態になったはずじゃがのぅ?」
「大技で一気にやる。時間稼ぎを頼む!」
「しょうがないのぅ」

黒竜は空中で一回転すると、大きく羽根を羽ばたかせた。
黒竜が得意とする幻惑により、サァッと不自然な霧が周囲に立ちこめる。
追っ手が戸惑ったように動きを緩めるのが、黒竜の目にはっきりと見えた。
その貴重な時間を見逃す二人ではない。

「アーノルド!!」
「了解ですっ!」
「「炎蜘蛛陣!!(リ・ジンガ)」」

二人の慣れた合成印技は、当然のごとく、その敵を直撃し、吹き飛ばしたのであった。