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◆ゼラーネの双将軍(1)


紫竜ドゥルーガは、王都に人間の知り合いがいる。
その人間は代々、ドゥルーガと付き合いがある家で、由緒正しい鍛冶師の家柄だ。
遠い昔、ドゥルーガはその家の鍛冶師を使い手にしたことがある。それ以来の縁で、ドゥルーガが訪れた際には、ドゥルーガに鍛冶場を貸してくれる。そういう家訓になっているそうだ。ドゥルーガも借りる礼に、鉱石などちょっとした品を手みやげに持っていくようにしている。

現在の当主であるガイジは、初老の男だ。
黒い髪はほとんど白くなり、痩せた体は少し腰が曲がっている。しかし、贅肉などはなく、ちゃんと筋肉がついた働き者らしい体だ。
戦いで跡継ぎを亡くして、気落ちしているが、元々は荒っぽく気の良い男だ。

「俺の使い手が引退したら継ぐように言ってやるから、後は任せておけ」
「ほぉお?そりゃ、頼もしいな!」
「軍人などになると言ってやがる。そこが問題だ」
「軍人か。……お得意様だがろくでもねえ職業だ」
「全くだ!ろくでもない職業だ!」

だが、お前さんが今作っている武具は、軍人用だろう?とガイジ。

「見事なもんだ。全く、寿命が短い人間であるのが悔しいぜ。お前さんと同じぐらい長い寿命があったら、絶対負けねえぐらいの武具を作ってみせるってのによ」

下町育ちで完全な職人肌らしい男の台詞にドゥルーガは笑った。

「お前も同じ事を言うか。お前の父と祖父も同じ事を言ったぞ」

血だな、と笑うドゥルーガに、男も大笑いした。
そこへ男の妻がやってきた。小柄で働き者の妻は、いつものお偉いさんがお見えだと告げた。

「あぁ、また大将かい」
「うん?」
「第四軍の将軍様さ。知り合った頃にゃ、悪戯坊主みてえな、ひよっこ騎士だったってのによ、雛は雛でも猛禽類の雛だったらしい。会うたびに出世しやがって、今じゃ近衛第四軍の大将になってやがる」
「ほぉ…」

小竜のまま会えば面倒なことになるため、ドゥルーガはこっそり隠れて、会話だけを聞いた。
武器は持ってこなかったのか?、だの、今日は手入れの依頼じゃなくて仕入れにきたんだ、だの、店主との会話が聞こえてくる。
会話を聞いているうちにドゥルーガは、客の男が近々、北へ向かうことを知った。第三軍を手伝うためだという。

(好都合だ)

完成した武具をどうやって北まで届けるか悩んでいたところだ。
スティールの側を離れるわけにはいかないため、黒竜の来訪を待つしかないかと思っていたところだった。
客の男は近衛第四軍将軍だという。それほどの高位にいる人物ならば約束を違えることはないだろう。店主の知人であるという点も信頼できる。

将軍位という高位の人物に個人的な配達を頼むという点について、全く疑問を感じぬ小竜は、客の男に配達を頼むことにした。