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◆ディンガルの黄金獣(9)


武具と呼ばれる品にはいくつもの種類がある。
その最高位は七竜と呼ばれる意思を持つ武具になるが、それに準ずる物も世界には多く存在している。
それらは秘宝として扱われている物が多く、主に王家や騎士団に存在し、七竜には及ばぬものの、十分に大きな力を持つ。
王家に受け継がれているアルファスーン(女神の石)。
三大貴族の一つ、北のサンダルス公爵家の受け継がれているリオ・ラディアン(血杯の乙女)とシュイ・ザー(清らかなる泉の針剣)。
同じく三大貴族の一つ、西のディガルド公爵家に受け継がれるアンリ・ブレス(大いなる風の腕輪)などが有名だ。
ディンガル騎士団にもそれらの武具は存在している。ガルダンディーア(大いなる山の神獣)がもっとも有名なものだが、それに準ずる武具としてガルダンディズとヴァルグリーアが知られている。
大きな彫像のようなガルダンディーアは三人がかりで動かす武具だ。武具というより兵器に近い性能を持つ。
ガルダンディズは地の印の力を持つ武具で小手型の武具だ。普段は蜥蜴のような姿をしているが、装着時は小手となる。やや気難しく、地の上級印持ちでなければ扱うことができない武具であるため、普段は最前線にでることが多いエルザークが使用していた。ディンガルの秘宝であるため、戦いに赴くときのみ、装備していた。
一方のヴァルグリーアは肩当てのような武具だ。装飾が派手な銀色の武具で、四属性印を強化する能力を持っている。
万能性があるため、状況に応じて三人で使い分けていた。
ガルダンディーアは元より、残る二つも取り扱いが容易ではなかったため、扱えるものは少なかった。ディンガルの秘宝であるため、使用も将軍位の三名しか使えなかったのだ。

「武具が欲しいッス」

アーノルドがそうぼやくのも無理はないのだ。以前は武具に関しては恵まれた環境にいた。故に能力を存分に発揮して戦うことができたのだ。

アーノルドと同じく己の武具をこの世界に持ち込めなかったオルスは、特に不満を言わない。大きな理由は黒竜の盾の存在だろう。精神技を得意とする盾は防御面の補佐に関しては文句なしの能力を誇る。土属性ではないため、印の補助は気休め程度だが、それでも安い武具とは比べものにならない。
以前のように印を振るうことはできないが、大きな問題となるほどではない、とオルスは言う。歴史家殿の助けがある分、防御面に関してのみならば以前より助かる、とのことだ。
ちなみに歴史家殿こと黒き盾は当然ながらアーノルドやエルザークが使うことも出来る。
しかしアーノルドは二刀流、エルザークは弓矢使いだ。消去法であっさりとオルスが盾を使うことに決まった。

(紫竜ドゥルーガ殿とはいつになったら会えるかな…)

使い手のスティールの居場所ならば判るので、会おうと思ったら会えるだろう。
しかし、ドゥルーガはとてもプライドが高く気難しい小竜だ。基本的に使い手以外とは口も聞かず、見向きもしない。かつて、一国を滅ぼした過去を持つ、気難しい小竜に武器を作ってもらうにはそれ相応の報酬が必須となる。前回はスティールと知人だったため、彼の口利きで作ってもらえた。しかし今回は間違いなく高額の報酬が必須だ。

(まずは稼ぐしかないな…)

とにかく武具が最優先。そのことに変わりはなかった。