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◆ディンガルの黄金獣(4)


「ディンガルの山が見えてきましたよ、先輩」
「あぁそうだな」

狩りに出たとき、これほど長く離れることになるとは思わなかった。そう思いながらエルザークは長い時を過ごした地を遠目に見つめた。

ディンガルとは山に住まう守護聖獣の名であり、そこからとったと言われている。

ディンガル騎士団の本拠地は山を背に作られており、三段階の城壁が城を守っている。
住民もほぼ全員が騎士団関係者だ。
北のホールドス国、西のガルバドス国といった複数の国々に挟まれた厳しい環境がディンガルという地を生み出したとも言われる。
ディンガル騎士団は北と西の大国に挟まれた位置にあるため、出動がもっとも多い騎士団と言われる。それだけに完全実力主義であり、開放的で傭兵部隊に似た気質がある。
また、騎士団が雇う傭兵の数も国内でトップクラスだ。出撃数が多い分、傭兵を雇う機会が多いのだ。
この時代では初めてきた街だが、たった十年で劇的に変わるわけでもない。慣れた道を通り、入り口へ向かった。
ディンガル騎士団は、随時、傭兵を募集している。
15才以上ならば誰でも入れるため、楽と言えば楽だ。
その代わり、死亡率も高いため、甘くはない世界だ。

「えっと、登録、登録っと……」
「待て、俺が書く。テメエに書かせたら恥だ」
「先輩、酷いッスー!」

サッと内容に目を通して三人分を書いて渡すと、綺麗な字だなと感心された。
その声に聞き覚えがあって顔を上げると、知った顔が受付として座っていた。

(…ジュダック!!)

以前の世界では側近の一人だった人物だ。この世界ではまだ下っ端騎士なのでこのような場所にいるのだろう。

「あ!…ムグッ」

同じく気づいたらしいアーノルドが声をあげようとしたところをオルスが口を塞ぐことで止めている。

(ナイスフォロー、オルス!)

簡単な説明を受けた後、エルザーク達はその場を離れた。

(まさか最初から知り合いに会うとはな)

幸先がいいのか悪いのか。そんなことを思いつつ、エルザークたちは城下へ出た。
傭兵は戦いがない限り、仕事がないのだ。

「新米の頃の仕事か…」
「内乱鎮圧やガルバドス戦が何度かあったな」
「せんぱーい、お腹空きました」

真面目に今後のことを心配しているところに、不安の欠片も感じぬようなアーノルドの台詞が飛んできた。エルザークは脱力しつつ、いつでも前向きな後輩にため息を吐いた。

(こいつは…)

「まぁ考えても仕方ない。食事をするか」

オルスがそう呟く。

「どこにする?」
「そういえば葉衣亭は騎士以外お断りだから行けないか…。傭兵がよく行くような店にするか。情報収集もできるかもしれない」

今までよく使っていた騎士向けの店は行きづらくなった。別種の店にする必要がある。

「あ、じゃあ俺知ってるッスー!」

傭兵とも交流があったアーノルドが意気揚々と歩き出す。二人は苦笑してその後を追った。