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◆ディンガルの黄金獣(3)


ウェリスタ国には三大貴族と呼ばれる大貴族がいる。
三大貴族と呼ばれるだけあり、彼らはそれぞれの地方で絶大なる権力を握っている。
一つは南東のミスティア、もう一つは西のディガルド。
最後の一つが北のサンダルス公爵家である。

サンダルス公爵家の居城はゼラーネの街にある。ゼラーネは北方一の都と呼ばれ、コニファー湖の畔に広がる。
ゼラーネは別名を水の都といい、水路が張り巡らされ、至るところに小橋がある美しい都だ。
遠くに見える白き山々ベルドーストンとその麓に広がる針葉樹林がコニファー湖と共に美しく映えるため、景観の良い都としても有名である。
しかしその都も幾度となく北の大国からの戦火に晒されてきた。
サンダルス公爵家の領地は北の大国と接しており、その玄関口となっている。
北の大国ホールドスにて南に領地を持つワーズ族が大変血気盛んなため、因縁とも言える戦いを、過去幾度も繰り広げてきたのだ。サンダルス公爵家の歴史は戦いの歴史とも言われ、他の二大公爵よりも武闘派の貴族として知られている。
サンダルス公爵家の人々は若き双子将軍を熱く慕っている。若き頃から戦場に出て、民を守ってくれるその姿を目の当たりにし、次期領主として誇らしげに思っているのだ。
美しい銀色の髪と水色の瞳を持ち、若く優秀で見目も良い二人は北方で人気絶頂の将軍であった。


「じゃあ正体は判らぬままか」
「騎士団からもそんな騎士は所属していないと言われた。ディンガル騎士団が隠す理由などないから事実だろう」
「そうだな。しかし傭兵としてもおかしい。傭兵なら必ず金を欲するはずだ。彼等はそれが仕事だからな。何故、名乗り出てこないのか…」

双子はゼラーネの城で探し人の話をしていた。
話題は彼等を救ってくれた恩人のことだった。
目撃者などの証言も含め、話を照らし合わせた結果、兄と弟を救った人物は三人。兄を救った人物は三人の中の一人であったことが判った。
しかし判ったのはそこまでだった。
彼等が何処の誰であるのか、何故名乗り出てこないのか、何故双子を救ってくれたのかなど、肝心の部分は判らないままだ。

騎士ならば手柄を隠す必要がない。むしろ立場的に隠してはならない。貴族を守り、従う立場だ。隠しても不利益にしかならない。
傭兵ならば名乗り出るのが普通だ。戦うことによって金を稼ぐ職業だからだ。

「……会いたいな」

そう繰り返す弟に兄アーウィンは同意しつつも、内心では困惑していた。
アーウィンが知る限り、弟が誰かに執着したことはない。明るくサッパリした性格の弟は執着心がないのだ。美男美女に言い寄られても笑顔で躱すような性格で、好きなものもなければ嫌いなものもないように見えた。それだけに戸惑うアーウィンである。何か一つに執着する、このような弟は見たことがない。

『弟君は愛するものを見つけた方がいい。執着のなさは死に繋がる』

そうアーウィンに告げた人物がいる。剣の師であった老将だ。戦場経験豊富な彼の言葉は重みがあった。

『戦場では生への執着が強さに繋がることがある。何か執着できるものを見つけられればいいのだが…』

「……現時点ではどうしようもないな。恩人だ。手荒なまねをするわけにもいかない」

アーウィンがため息混じりにそう告げるとローウィンは頷いた。

「そうだな」
「調査は続ける。このままでは気分がすっきりしないからな」